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 ◆ 最勝四天王院を甦らす 47の歌枕と歌人に関連する地 定家独撰 

 承元元年(1207年)に、後鳥羽院は最勝四天王院の四十六間ある障子(襖)に名所絵と歌を描かせようとしました。その遂行の中心的人物 となったのが定家です。名所の選定をし、後鳥羽院が、自身を含めて10人の歌人に46名所を一首ずつ都合460首の歌を集め、 その中から1首ずつ歌を選び、46首の歌と絵を障子に張らせたのです。


 ところが、建保七年(1219年)に鎌倉三代将軍の 実朝が暗殺されると、後鳥羽院はあわてて取り壊してしまいました。実はこの御堂で関東調伏のための壇を立てて呪詛していたのです。


 若き将軍が暗殺されたことや心血注いだ最勝四天王院が取り壊されたことなど、人を介して実朝と師弟関係をむすんでいた定家の無念さ は如何ばかりだったでしょうか。


 百人秀歌と百ト一首の二つの歌集から都合105首の歌とその歌の出典にある勅撰和歌集の詞書から歌枕の 地や歌人に関係のある地を最勝四天王院の46歌枕に照らし合わせて表を作ってみました。


 45首(歌36首、詞9首)より47ヶ所となりましたが最勝四天王院のものとは若干変動があります。山城の名所から東国の名所へ行く道として 伊勢路を封印して志賀の山越えから伊吹山のコースを作り出しています。何か理由があるのでしょうか。 


 「あまのはら(7)」の詞書きにある、「もろこしにて月を見てよみける」による「唐土」は、「西国の名所 」に含まれるものではありませんが、定家にとっては、「松浦宮物語」を呼び起こさせるものとして、D−18の松浦山(佐賀県唐津湾)と ともに必要だったのでしょうか。 


 「由良の戸 」はDの「西国の名所 」に入れるべきかとも思いましたが、定家にとっては、曾禰好忠(46) が丹後掾であったことは関わりのないことであり、Bの摂津・紀伊の名所 の方がふさわしいと解釈しました。しかし淡路島にも由良の戸はあるとのことです。 (吉海直人)


 定家は二つの101首集の中に自選による47ヶ所(1ヶ所は唐土)の歌枕や地名を入れたのでしょうか。春日野の(秀73)ときのくにの(秀90)の2首が 百人秀歌集から百ト一首集へ懸け橋を渡って来ています。この2首にも何か秘密が隠されているのでしょうか


 (日文研データーベースの最勝四天王院和歌(最勝四天王院障子和歌)より10首ごとに歌枕を抜粋し、AからGの七か所に分類しました。) 


 47の歌枕と関連地名の一覧表の次に45首の歌を並べています。  

 
       ● 二つの101首集(百人秀歌と百ト一首)より47の歌枕と歌人に関連する地  
 
   A 大和の名所    1 春日野 2 吉野 3 三輪山 4 龍田川 5 初瀬
秀73 春日野 7 三笠山 24 手向山 61 & 75(詞) 奈良(興福寺) 17 &69 龍田川
69 三室山 35(詞) & 74 初瀬 2 天の香久山 31 & 94 吉野(の里) 66(詞) 大峰山
 
   B 摂津、紀伊の名所    6 難波 7 住吉 8 芦屋 9 布引の滝 10 生田杜 11 和歌浦 12 吹上浜 
18 住の江 19 難波潟 20 難波 88 難波江 72 高師の浜 46 由良の戸 秀90 紀ノ國 秀90 由良の岬
 
   C 交野から播磨の名所    13 交野 14 水無瀬川 15 須磨 16 明石 17 飾磨  
78 淡路島 78 須磨の関 97 松帆の浦
 
   D 西国の名所    18 松浦山(佐賀県唐津湾) 19 因幡 20 高砂 21 野中の清水(播磨) 22 天橋立
7(詞) 唐土 11(詞) 隠岐の国 16 因幡の山 34 高砂 58 有馬山
58 伊那の笹原 60 大江山 60 生野 60 天橋立
 
   E 山城の名所    23 宇治川 24 大井川 25 鳥羽田 26 伏見 27 泉川 28 小塩山 29 逢坂山(逢坂関)
8 宇治山 & 64 宇治川 27 みかの原 27 泉川 10 & 25 & 62 逢坂山(関) 26 小倉山
71(詞) 梅津の山里 47(詞) 河原院 55(詞) 大覚寺滝殿 98 ならの小川(上賀茂神社) 32詞) 志賀の山越え
 
    伊勢路の名所  30 志賀の浦 31 鈴鹿山 32二見の浦 33大淀浦 
   
   F 東国の名所    34 鳴海の浦(尾張) 35 浜名の橋 36 宇津の山(駿河) 37 更科山(信濃) 38 清見潟(駿河) 
                 39 富士山 40 武蔵野 41 白河の関
51 伊吹山 4 田子の浦 4 富士山 13 筑波嶺 13 男女川
 
   G 陸奥の名所    42 阿武隈川 43 安達ヶ原 44 宮城野の原 45 安積の沼 46 塩釜の浦 
14 陸奥 14 信夫 42 末の松山 90 雄島
 

 
 ● 47ヶ所の歌枕と歌人に関連する地を織り込んだ45首の和歌
                         
A.1ヶ所目 春日野の 下萌えわたる 草の上に つれなく見ゆる 春の淡雪 (秀73)
2ヶ所目 (もろこしにて月を見てよみける) (20ヶ所目)

天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも (7)  
3ヶ所目 このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに (24) 
4ヶ所目 いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな (61) 
(僧都光覚維摩会(興福寺)の講師の請を申しける時...)

契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり (75) 
5ヶ所目 ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは (17) 
5 & 6ヶ所目 嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり (69)  
7ヶ所目 (はつせにまうづるごとに...)

人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける (35)
憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ 激しかれとは 祈らぬものを (74)
8ヶ所目 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山 (2)  
9ヶ所目 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪 (31)  
みよし野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣打つなり (94)  
10ヶ所目 (大みねにて思ひかけず桜の花を...)

もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし (66) 
B.11ヶ所目 すみの江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ (18)   
12ヶ所目 難波潟 短き蘆の ふしの間も 逢はでこの世を すぐしてよとや (19) 
わびぬれば 今はたおなじ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ (20) 
難波江の 蘆のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき (88)  
13ヶ所目 音に聞く 高師の浜のあだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ (72)
14ヶ所目 由良のとを 渡る舟人 かぢを絶え 行く方も知らぬ 恋の道かな (46) 
15 & 16ヶ所目 きのくにの ゆらのみさきに 拾ふてふ たまさかにだに 逢い見てしかな (秀90)
C.17 & 18ヶ所目 淡路島 通ふ千鳥の 鳴く声に 幾夜寝ざめぬ 須磨の関守 (78)  
19ヶ所目 来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ (97)
D.20ヶ所目 (もろこしにて月を見てよみける) (7) 【2ヶ所目】 
21ヶ所目 (隠岐の国に流される時に、舟に乗りて出で立つとて、京なる人のもとにつかはしける)

わたの原 八十島かけて こぎ出でぬと 人には告げよ あまのつり舟 (11) 
22ヶ所目 立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む (16) 
23ヶ所目 たれをかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに (34) 
24 & 25ヶ所目 有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする (58) 
26 & 27 & 28ヶ所目 大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立 (60)  
E.29ヶ所目 わが庵は 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり (8)  
朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木 (64)  
30 & 31ヶ所目 みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ (27)  
32ヶ所目 これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関 (10)  
名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな (25) 
夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも よに逢坂の 関は許さじ (62) 
33ヶ所目 おぐら山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ (26) 
34ヶ所目 (師賢朝臣の梅津の山里に...)

夕されば 門田の稲葉 おとづれて 蘆のまろやに 秋風ぞ吹く (71)
35ヶ所目 (河原院にてあれたるやどに...)

八重むぐら 茂れる宿の 寂しきに 人こそ見えね 秋は来にけり (47) 
36ヶ所目 (大覚寺に人々あまたまかりたりける...)

滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ (55) 
37ヶ所目 風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける (98)
38ヶ所目 (しがの山ごえにてよめる)

山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり (32)  
F.39ヶ所目 かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを (51) 
40 & 41ヶ所目 田子の浦に うちいでて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ (4) 
42 & 43ヶ所目 筑波嶺の 峰より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる (13)  
G.44 & 45ヶ所目 陸奥の しのぶもぢずり たれゆゑに 乱れそめにし われならなくに (14) 
46ヶ所目 契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは (42) 
47ヶ所目 見せばやな 雄島のあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし 色はかはらず (90) 



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