正面玄関
★≪百人秀歌と百ト一首≫
★≪最勝四天王院≫
★≪定家略年譜≫
★≪北斗七星信仰≫
◆ 最勝四天王院を甦らせる (2025/8/5)
・歌人名の前にある数字は「百人秀歌」番号です。
承元元年(1207年)、XX後鳥羽院は最勝四天王院の四十六間ある障子(襖)に名所絵と歌を描かせようとしました。その遂行の中心的人物となったのが100定家です。
46個所の名所の選定をし、XX後鳥羽院が自身を含めて10人の歌人(注)に46名所を一首ずつ都合460首の歌を集めました。
XX後鳥羽院はその中から1首ずつ歌を選び、46首の歌と絵を障子に張らせたのです。
(注) 10人の歌人 5人(5x1)の歌人のうちXX後鳥羽院は「百ト一首」の方にだけいます。
1
久我通光
1187-1248 村上源氏 顕房流 通親三男 母後鳥羽院乳母
2
俊成卿女
1171?-1251以降 祖父87俊成の養女 通親次男の通具室 具定母
3
源具親
村上源氏 俊房流 妹は後鳥羽院宮内卿 妻は北条義時前室の姫の前
4
藤原有家
1155-1216 魚名三男の末茂流 六条藤家 80顕輔孫 84清輔甥
5
藤原秀能
1184-1240 北面の武士 承久の乱大将 如願 隠岐島に渡る
6
1
XX後鳥羽院
1180-1239 XX順徳院父 1221承久の乱後に隠岐島配流
7
2
96慈円
1155-1225 79忠通男 95良経叔父 天台座主 「愚管抄」記す
8
3
97藤原雅経
1170-1221 和歌、蹴鞠の家として飛鳥井家の祖 大江広元の女婿
9
4
99藤原家隆
1158-1237 87俊成に学ぶ 100定家と並び称される 93寂蓮の女婿
10
5
100藤原定家
1162-1241 87俊成男 京極中納言(黄門) 御子左家五代目 法名明静
渡邉裕美子氏は、「歌が権力の象徴になるとき、屏風歌・障子歌の世界」において、最勝四天王院は、「治天の主後鳥羽院が統治する日本国全体の縮図」と看破したのは久保田淳氏だが、
さらに四季のめぐりが繰り返されていることから、この障子絵と歌は、
後鳥羽院の空間と時間の支配の変化の象徴化・現前化ととらえられる。
院が中核にいて、時空を統率する(幻想の大国)だったのだと、述べられています。
それ故なのか、心血注いだ最勝四天王院の御堂を定家自身は見ることを許されませんでした。
建保三年(1215年)、内裏百首「名所」百首をXX順徳天皇をはじめ当時の歌人たち12名が詠んでいます。
これは部立てがあり、春、夏、秋、冬、恋、雑と分かれており、全1200首が集められました。
文暦元年(1234年)に「新勅撰集」を編纂するも後堀河天皇崩御により草稿を焼却してしまいます。
しかし諦めきれない九条道家の命により、天皇や関係者の歌を百余首削除してまとめ上げ、嘉禎元年(1235年)3月12日に道家に献上します。
当時74歳の100定家はこのやるかたない思ひを何らかの形で残そうとして、この二つの歌集を編み、その中に幾つもの秘中の秘を織り込んだのではないでしょうか。
その一つが日本全国の名所による歌の数々です。
これは「百人秀歌」の方で思ひをこめたのでしょうね。「秀73春日野の」と「秀90紀の国の」の2首は「百ト一首」にはないのですから。
百74俊頼の歌は、初瀬の地を詠んでおりここでも両集を繋いでいます。
歴代の歌人たちの歌を選出することによって600年間の時間と空間と、
部立てを立てることによって和歌史そのものを自分の中に取り込んでしまったのです。
100定家と言えどもこれらの集を編むために、歌を色紙形に書いてパズルのごとく並べ替えたり組み合わせたのではないでしょうか。
◆日本国全体の縮図と空間と時間の支配と歌人たちの掌握
日文研データーベースの「最勝四天王院和歌」(最勝四天王院障子和歌)より10首ごとに歌枕を抜粋し、
AからHの八か所(46歌枕)に分類しました。
−−−−−
「百人秀歌」と「百ト一首」の二つの歌集の105首の歌とその歌の出典にある勅撰和歌集の詞書から歌枕の地や歌人に関係のある地を選び出してみると、
都合50か所(5X5X2)45首(5X3X3)の歌がありましたので、最勝四天王院の46歌枕に照らし合わせて表を作ってみました。
其々の地域ごとにXX順徳院の「内裏百首 名所」のように部立て順に並べてみました。
1.「秀6あまのはら」の詞書きにある、「もろこしにて月を見てよみける」による「唐土」は、「D・西国の名所」に含まれるものではないですが、
100定家にとっては、「松浦宮物語」を呼び起こさせるものとして、D−18の松浦山(佐賀県唐津湾)とともに必要だったのでしょうか。
2.「47由良の戸 」は「D・西国の名所」ではなく、100定家の時代では「B・摂津・紀伊の名所」と考えられていました。
3.山城の名所から東国の名所へ行く道として「F・伊勢路の名所」を封印して志賀の山越えから伊吹山のコースに変えています。
A 大和の名所 1 春日野 2 吉野 3 三輪山 4 龍田川 5 初瀬
定家選出の名所11ヶ所
部立て
13首の歌 (歌の末にある数字は「「百人秀歌」番号です)
1
春日野
春
春日野の下萌えわたる草の上につれなく見ゆる春の淡雪 73
2
初瀬(詞)
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける 28
3
奈良(詞)
いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな 65
4
天香久山
夏
春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山 2
5
三室山・竜田川
秋
嵐吹く三室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり 57
6
竜田川
ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは 10
7
吉野
みよし野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣打つなり 97
8
冬
朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪 29
9
春日・三笠山
羇旅
天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも 6
10
手向山
このたびは幣もとりあへず手向山紅葉の錦神のまにまに 23
11
初瀬
恋
憂かりける人を初瀬の山おろしよ激しかれとは祈らぬものを 百74
12
奈良(詞)
雑
契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり 82
13
大峰山(詞)
もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし 71
B 摂津、紀伊の名所 6 難波 7 住吉 8 芦屋 9 布引の滝 10 生田杜 11 和歌浦 12 吹上浜
定家選出の名所8ヶ所
部立て
7首の歌 (歌の末にある数字は「「百人秀歌」番号です)
14
住ノ江
恋
すみの江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ 11
15
難波潟
難波潟短き蘆のふしの間も逢はでこの世をすぐしてよとや 19
16
難波
わびぬれば今はたおなじ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ 20
17
難波江
難波江の蘆のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき 89
18
高師浜
音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ 74
19
紀ノ国・由良の岬
きのくにのゆらのみさきに拾ふてふたまさかにだに逢い見てしかな 90
20
由良の戸
由良のとを渡る舟人かぢを絶え行く方も知らぬ恋の道かな 47
C 交野から播磨の名所 13 交野 14 水無瀬川 15 須磨 16 明石 17 飾磨
定家選出の名所3ヶ所
部立て
2首の歌 (歌の末にある数字は「「百人秀歌」番号です)
21
淡路島・須磨の関
冬
淡路島かよふ千鳥の鳴く声に幾夜め覚ぬ須磨の関守 81
22
松帆の浦
恋
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ 100
D 西国の名所 18 松浦山(佐賀県唐津湾) 19 因幡 20 高砂 21 野中の清水(播磨) 22 天橋立
定家選出の名所7ヶ所
部立て
5首の歌 (歌の末にある数字は「「百人秀歌」番号です)
23
有馬山・猪名
恋
有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする 62
既出
唐土(詞)
羇旅
天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも 6 A大和の名所
24
隠岐の国(詞)
わたの原八十島かけてこぎ出でぬと人には告げよあまのつり舟 7
25
因幡の山
離別
立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む 9
26
大江山・天橋立
雑
大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立 66
27
高砂
たれをかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに 31
E 山城の名所 23 宇治川 24 大井川 25 鳥羽 26 伏見 27 泉川 28 小塩山 29 逢坂関
定家選出の名所11ヶ所
部立て
11首の歌 (歌の末にある数字は「「百人秀歌」番号です)
28
ならの小川(上賀茂神社)
夏
風そよぐならのおがわの夕ぐれは禊ぞ夏のしるしなりける 99
29
河原院(詞)
秋
八重むぐら茂れる宿の寂しきに人こそ見えね秋は来にけり 52
30
梅津の山里(詞)
秋
夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろやに秋風ぞ吹く 70
31
宇治川
冬
朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木 67
32
みかの原・泉川
恋
みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるらむ 36
33
逢坂山
名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな 35
34
小倉山
雑秋
をぐら山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ 34
35
大覚寺滝殿(詞)
雑
滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなをとまりけれ 59
36
逢坂の関
夜をこめて鳥のそら音にはかるともよに逢坂の関は許さじ 60
37
これやこの行くも帰るも別れつつ知るも知らぬも逢坂の関 16
38
宇治山
わが庵は都のたつみしかぞすむ世をうぢ山と人はいふなり 14
F 伊勢路の名所 30 志賀の浦 31 鈴鹿山 32二見の浦 33大淀浦
※F 近江の名所
定家選出の名所2ヶ所
部立て
2首の歌 (歌の末にある数字は「「百人秀歌」番号です)
39
滋賀の山越え(詞)
秋
山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり 32
40
伊吹山
恋
かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを 50
G 東国の名所 34 鳴海の浦(尾張) 35 浜名の橋 36 宇津の山(駿河) 37 更科山(信濃) 38 清見潟(駿河)
39 富士山 40 武蔵野 41 白河の関
定家選出の名所4ヶ所
部立て
2首の歌 (歌の末にある数字は「「百人秀歌」番号です)
41
田子の浦・富士山
冬
田子の浦にうちいでて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ 4
42
筑波嶺・男女川
恋
筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞつもりて淵となりける 12
H 陸奥の名所 42 阿武隈川 43 安達ヶ原 44 宮城野の原 45 安積の沼 46 塩釜の浦
定家選出の名所4ヶ所
部立て
3首の歌 (歌の末にある数字は「「百人秀歌」番号です)
43
陸奥・信夫
恋
陸奥のしのぶもぢずりたれゆゑに乱れむとおもふわれならなくに 17
44
末の松山
契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波越さじとは 45
45
雄島
見せばやな雄島のあまの袖だにもぬれにぞぬれし色はかはらず 91
各名所の歌数 45首(5X3X3)
A大和の名所
B摂津紀伊の名所
C交野から播磨の名所
D西国の名所
E山城の名所
※F近江路の名所
G東国の名所
H陸奥の名所
13首
7首
2首
5首
11首
2首
2首
3首
部立て別の歌数 45首(5X3X3)
春
夏
秋
冬
羇旅・別離
恋
雑
3首
2首
6首
4首
4首
17首
9首
さて、宇都宮頼綱には何枚の式紙を書いたのでしょうね?山荘の障子に貼る歌として名所ごとの四季の歌15首(5X3)を取り出してみました。
100定家は、宇都宮頼綱の嵯峨中院の障子和歌のために歌を選び出しました。
本来なら能筆家の藤原行能に書いてもらうが、頼綱たっての希望により自分で色紙に書き、また自分が詠んだ歌ではないので、
それらの歌は天智天皇にはじまり雅経、家隆におよぶものと「明月記」に記録したのではないでしょうか。
1
41
G東国の名所
冬
田子の浦・富士山
田子の浦にうちいでて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ
4山邊赤人
2
39
※F近江路の名所
秋
滋賀の山越え
山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり
32春道列樹
3
28
E山城の名所
夏
上賀茂神社
風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける
秀99正三位家隆
4
29
秋
河原院
八重むぐら茂れる宿の寂しきに人こそ見えね秋は来にけり
秀52恵慶法師
5
30
梅津の山里
夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろやに秋風ぞ吹く
秀70大納言経信
6
31
冬
宇治川
朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木
秀67権中納言定頼
7
1
A大和の名所
春
春日野
春日野の下萌えわたる草の上につれなく見ゆる春の淡雪
秀73中納言国信
9
2
奈良
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける
秀28紀貫之
8
3
奈良
いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな
秀65伊勢大輔
10
4
夏
天の香久山
春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山
2持統天皇
11
5
秋
三室山・竜田川
あらし吹く三室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり
秀57能因法師
12
6
竜田川
ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは
秀10在原業平朝臣
13
7
吉野
み吉野の山の秋風小夜ふけてふるさと寒く衣うつなり
秀97参議雅経
14
8
冬
吉野
朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に触れる白雪
秀29坂上是則
15
21
C交野から播磨の名所
淡路島・須磨の関
淡路島かよふ千鳥の鳴く声に幾夜め覚ぬ須磨の関守
秀81源兼昌
秋
近江宮
秋の田のかりほの庵の苫を荒みわが衣手は露にぬれつつ
1天智天皇
世紀別歌人 15首(5X3)+1首
七世紀〜八世紀
八世紀〜九世紀
九世紀〜十世紀
十世紀〜十一世紀
十一世紀〜十二世紀
十二世紀〜十三世紀
1天智天皇
2持統天皇
4山邊赤人秀10在原業平朝臣
秀28紀貫之
秀29坂上是則
32春道列樹
秀52恵慶法師秀57能因法師
秀65伊勢大輔
秀67権中納言定頼秀70大納言経信
秀73中納言国信
秀81源兼昌秀97参議雅経
秀99正三位家隆
参考資料
※「百人一首」久保田淳校注 岩波文庫 2025年5月15日 第1刷発行
※「藤原定家全歌集 上」久保田淳校訂・訳 ちくま学芸文庫 2017年8月10日 第1刷発行
※「歌が権力の象徴になるとき」屏風歌・障子歌の世界 渡邉裕美子 角川学芸出版 平成23年1月25日初版発行
※「明月記研究提要」明月記研究会編 八木書店 2006年11月20日 初版発行
※「新版古今和歌集」 高田裕彦訳注 角川ソフィア文庫 平成24年10月20日 五版発行
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