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いかにせむ 葛の裏吹く秋風に下葉の露の隠れなき身を  恋歌三1166番 相模 (巻第十三)   2019/4/21−2019/7/25

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和歌番号 和歌
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1149 忘れじの行末まではかたければけふを限りの命ともがな
わすれじの ゆくすえまでワ かたければ きょうをかぎりの いのちともがな
「わすれないよ」と言うあなたの言葉がいつまでも続くと思われないので、逢った今日限りの命であって欲しいものです。
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1150 限りなく結びおきつる草枕いつこのたびを思ひ忘れむ
かぎりなく むすびおきつる くさまくら いつこのたびを おもいわすれん
かぎりなく深い契りを結んで共に起きた旅寝。いつこのたびの旅寝を忘れることがあるでしょうか。
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1151 思ふには忍ぶることぞ負けにかる逢ふにしかへばさもあらばあれ      伊勢物語65段
おもうにワ しのぶることぞ まけにかる あうにしかえば さもあらばこそ 
思いは、忍ぶことを負かしてしまいます。逢うことと引き換えならば、わが身はどうなろうとかまいません。
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1152 きのふまで逢ふにしかへばと思ひしをけふは命の惜しくもあるかな
きのうまで あうにしかえばと おもいしを きょうはいのちの おしくもあるかな
昨日まで逢うことが出来たら惜しくないと思っていた命ですが、逢った後の今日は、命が惜しいです。
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1153 逢ふことをけふ松が枝のたむけ草幾夜しをるる袖とかは知る
おおことを きょうまつがえの たむけぐさ いくよしおるる そでとかワしる
逢えるその日を待っていた私の袖は、松の枝に付けられて年月を経た幣のように、幾夜涙で萎れているか分かりますか分からないでしょ。
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1154 恋しさにけふぞ尋ぬる奥山の日陰の露に袖は濡れつつ
こいしさに きょうぞたずぬる おくやまの ひかげのつゆに そでワぬれつつ
恋しく思い続けてやっと今日尋ねることが出来ます。奥山の日陰の露のような、あなたの節会の日陰の葛にかかる私の涙で袖が濡れてます。
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1155 逢ふまでの命ともがなと思ひしはくやしかりけるわが心かな
あうまでの いのちともがなと おもいしワ くやしかりける わがこころかな
逢うまでは私の命はあってほしいと思ったのは、今では後悔される私の心でした。
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1156 人心うす花染めの狩衣さてだにあらで色や変らむ
ひとごころ うすばなそめの かりごろも さてだにあらで いろやかわらん
人の心と言うものは、この薄花染めの狩り衣のようなもの、薄いということだけでなく、すぐに色褪せてしまうことでしょう。
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1157 逢ひ見てもかひなかりけりうばたまのはかなき夢におとるうつつは
あいみても かいなかりけり うばたまの はかなきゆめに おとるうつつワ
やっと逢ったのにそのかいはありませんでした。儚い夢にも劣った現実の逢瀬でした。
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1158 なかなかの物思ひそめて寝ぬる夜ははかなき夢もえやは見えける
なかなかの ものおもいそめて ねぬるよワ はかなきゆめも えやワみえける
なまじっか中途半端に人を恋しく思い始めて寝た夜は、ほんのちょっとした夢さえどうして見ることができましょうか。
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1159 夢とても人に語るな知るといへば手枕ならぬ枕だにせず
ゆめとても ひとにかたるな しるといえば たまくらならぬ まくらだにせず
私のことは夢に見たことであっても他の人に言わないでね。枕は人の秘密を知るということなので、手枕でない枕すらしてないんですよ。
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1160 枕だに知らねばいはじ見しままに君語るなよ春の夜の夢
まくらだに しらねばいわじ みしままに きみかたるなよ はるのよのゆめ
人の秘密を知るという枕さえ知らないのですから何も言えないでしょ。お願いだから見たままを人に言わないでね、春の夜の夢のごとしの逢瀬を。
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1161 忘れても人に語るなうたたねの夢見てのちも長からじ夜を
わすれても ひとにかたるな うたたねの ゆめみてのちも ながからじよを
別れた後も他の人にしゃべらないでね。うたたねで見た夢のようなこのかりそめの逢瀬も夜のごとく長く続かないでしょうから。
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1162 つらかりし多くの年は忘られて一夜の夢をあはれとぞ見し
つらかりし おおくのとしワ わすられて ひとよのゆめを あわれとぞみし
あなたの素っ気無さに辛かった長い年月は忘れることができて、一夜の夢のような逢瀬を感慨深く過ごしましたよ。
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1163 今朝よりはいとど思ひを焚きまして歎きこりつむ逢坂の山
けさよりワ いとどおもいを たきまして なげきこりつむ おおさかのやま
昨晩の逢瀬の後の今朝以来、「思ひ」という火を以前よりもっとまして焚き、「なげき」という木を切って、一途な思いを積んでいる逢坂の山よ。
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1164 蘆の屋のしづはた帯のかた結び心やすくもうちとくるかな
あしのやの しずはたおびの かたむすび こころやすくも うちとくるかな
足葺きの小屋で賤の娘が倭文機で仕立てた帯の方結びのように、あの人は直ぐに心を開いてうちとけたなあ。
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1165 かりそめに伏見の野辺の草枕つゆかかりきと人に語るな
かりそめに ふしみののべの くさまくら つゆかかりきと ひとにかたるな
その場限りで伏見の野辺で草枕を交わしたのですから、これこれしかじかと露ほどにも他の人にしゃべらないでね。
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1166 いかにせむ葛の裏吹く秋風に下葉の露の隠れなき身を
いかにせん くずのうらふく あきかぜに したばのつゆの かくれなきみを 
どうしたらいいのでしょう。葛の葉裏に吹く秋風で下葉についた露があらわになるように、私に飽きたあなたのおしゃべりで隠し事がさらされるわが身を。
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1167 明けがたき二見の浦に寄る波の袖のみ濡れて沖つ島人
あけがたき ふたみのうらに よるなみの そでのみぬれて おきつしまびと
夜が明けない二見の浦に寄せる波に袖ばかり濡れる沖の島の釣り人のように、中々開けてくれない格子の前でずっと涙で袖を濡らしながら起きていたんです。
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1168 逢ふことのあけぬ夜ながら明けぬればわれこそ帰れ心やはゆく
おおことの あけぬよながら あけぬれば われこそかえれ こころやワゆく
戸を開けてもらえず逢うこともなく夜は明けてしまったので私は帰りますが私の心はとても晴れやかとなるわけがありません。
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1169 秋の夜の有明の月の入るまでにやすらひかねて帰りにしかな
あきのよの ありあけのつきの いるまでに やすらいかねて かえりにしかな
秋の夜の有明の月が沈んで夜が明けてきたのにぐずぐずしていられないので戻りましたよ。
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1170 心にもあらぬわが身のゆき帰り道の空にて消えぬべきかな
こころにも あらぬわがみの ゆきかえり みちのそらにて きえぬべきかな
思うに任せない状態の私は、行っては帰る道すがら心もうつろで消えてしまいそうです。
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1171 はかなくも明けにけるかな朝露のおきてののちぞ消えまさりける
はかなくも あけにけるかな あさつゆの おきてののちぞ きえまさりける
あっという間に夜が明けてしまったなあ。あなたが帰った後、朝露が置いた後にすぐ消えるように、私の命も消えてしまいそうだ。
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1172 朝露のおきつる空も思ほえず消えかへりつる心まどひに
あさつゆの おきつるそらも おもおえず きえかえりつる こころまどいに
朝露が置いたように起きた覚えもありません。消えるように帰ってきたことですよ、心が乱れたままに。
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1173 おきそふる露やいかなる露ならむ今は消えねと思ふわが身を
おきそうる つゆやいかなる つゆならん いまワきえねと おもうわがみを
置いている上にさらに置く露はどの様な露なのでしょう。今は消えてしまえと思うわが身なのに。
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1174 思ひ出でて今は消ぬべし夜もすがらおきうかりつる菊の上の露
おもいいでて いまワけぬべし よもすがら おきうかりつる きくのうえのつゆ
思い出して、今は消えてしまいそうだ。夜通し起きて面白さに心奪われた私は、菊の上の露のように。
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1175 うばたまの夜の衣をたちながら帰るものとは今ぞ知りぬる
うばたまの よるのころもを たちながら かえるものとワ いまぞしりぬる
夜着を裁って、戸口に立ちながら、着ることもなく空しく帰ることになるとは、今わかりましたよ。
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1176 みじか夜の残りすくなくふけゆけばかねてものうき暁の空
みじかよの のこりすくなく ふけゆけば かねてものうき ありあけのそら
短い夏の夜なのに更に残り少なく更けてゆくので、もう暁の鐘とともに有明の空がつらく悲しいです。
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1177 明くといへばしづ心なき春の夜の夢とや君を夜のみは見む
あくといえば しずこころなき はるのよの ゆめとやきみを よるのみワみん
夜が明けるというので心が落ち着きません。短い春の夜の夢のように、はかなく夜だけお逢いするだけなのでしょうか。
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1178 今朝はしも歎きもすらむいたづらに春の夜ひと夜夢をだに見で
けさワしも なげきもすらん いたずらに はるのよひとよ ゆめをだにみで
今朝はまさにお嘆きになっていることでしょう。春の夜の一晩を夢さえ見ないで空しく過ごされたのですから
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1179 心からしばしとつつむものからに鴫の羽掻きつらき今朝かな
こころから しばしとつつむ ものからに しぎのはねがき つらきけさかな
心底二人のことはもうしばらく包み隠しているものなのに、暁を告げる鴫の羽ばたきの大きな音がつらい今朝です。
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1180 わびつつも君が心にかなふとて今朝も袂を干しぞわづらふ
わびつつも きみがこころに かなうとて けさもたもとを ほしぞわずらう
打ち解けてくれないあなたに悲観しながらも、あなたの心に添えられるようにと我慢して、今朝も虚しく帰宅した私の涙に濡れた袂を干しあぐねています。
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1181 手枕にかせる袂の露けきは明けぬと告ぐる涙なりけり
たまくらに かせるたもとの つゆけきワ あけぬとつぐる なみだなりけり
手枕として貸した私の袂が露でしっとりしているのは、「夜が明けた」と告げられた時にこぼした涙だったのですよ。
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1182 しばし待てまだ夜は深し長月の有明の月は人まどふなり
しばしまて まだよワふかし ながつきの ありあけのつきワ ひとまどうなり 
ちょっと待って、まだ真夜中です。遅く出る9月の有明の月に、もう夜が明けたと人は勘違いするのです。
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1183 おきて見ば袖のみ濡れていとどしく草葉の玉の数やまさらむ
おきてみば そでのみぬれて いとどしく くさばのたまの かずやまさらん
朝起きて、庭の植え込んだ露を置いた草木を見ると、私の袖はむやみに涙で濡れていて、草木を分けて帰りゆく私の袖は庭の草木の露の玉の数をさらにいっそう増やすことです。
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1184 明けぬれどまだきぬぎぬになりやらで人の袖をも濡らしつるかな
あけぬれど まだきぬぎぬに なりやらで ひとのそでをも ぬらしつるかな
夜は明けてしまったが、まだ別れることもしかねていると あの人の袖をも私の涙で濡らしてしまいました。
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1185 面影の忘らるまじき別れかななごりを人の月にとどめて
おもかげの わすらるまじき わかれかな なごりをひとの つきにとどめて
面影を忘れられそうもない後朝の別れです。つきぬ名残とともにあの人は月に留めておいて。
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1186 またも来む秋をたのむの雁だにも鳴きてぞ帰る春のあけぼの
またもこん あきをたのむの かりだにも なきてぞかえる はるのあけぼの
また訪れるであろう秋を頼みとしている田の面の雁ですら鳴きながら帰っていく春の曙。何を頼みとしてまた逢えるのか分からないまま、泣き泣き帰る私です。
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1187 たれゆきて君に告げまし道芝の露もろともに消えなましかば
たれゆきて きみにつげまし みちしばの つゆもろともに きえなましかば
誰があなたのところへ行って告げるのでしょうか。帰る途中で道芝の露と同じように私の命も消えてしまったら。
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1188 消えかへりあるかなきかのわが身かな恨みて帰る道芝の露
きえかえり あるかなきかの わがみかな うらみてかえる みちしばのつゆ
心が消えてしまいそうで生きているのか死んでいるのか分からないような私です。つれないあなたを恨んで帰る私は、道の傍に生えている草の露のようです。
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1189 朝ぼらけおきつる霜の消えかへり暮れ待つほどの袖を見せばや
あさぼらけ おきつるしもの きえかえり くれまつほどの そでをみせばや
朝ぼらけに置いた霜が消えるように、起きてからすっかり心も消沈してしまって、あなたが帰った後、夕暮れを待つまでの間の私の涙に濡れた袖をお見せしたいものです。
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1190 庭に生ふる夕かげ草の下露や暮れを待つまの涙なるらむ
にわにおうる ゆうかげくさの したつゆや くれをまつまの なみだなるらん 
庭に生えている夕方の薄明かりに見える草の下に落ちる露は、日が暮れるのを待つ間の私の涙なのでしょうか。
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1191 待つ宵に更けゆく鐘の声聞けば飽かぬ別れの鳥はものかは
まつよいに ふけゆくかねの こえきけば あかぬわかれの とりワものかわ
あの人の訪れをひたすら待つ夕暮れに、更けゆく時を知らせる鐘の音を聞くことは、後朝のあとの名残尽きない別れの時を告げる鶏の鳴き声を聞く辛さなどどうってことないです。
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1192 これもまた長き別れになりやせむ暮れを待つべき命ならねば
これもまた ながきわかれに なりやせん くれをまつべき いのちならねば
この後朝の別れもやはり永遠の別れになるのかな。日が暮れるのを待てそうもない私の命なので。
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1193 有明は思ひ出であれや横雲のただよはれつるしののめの空
ありあけワ おもいであれや よこぐもの ただよわれつる しののめのそら 
有明の月の頃は色々思い出がありますねえ。横雲が漂うように落ち着かなくさまよってしまったことです、夜明けの空の下で。
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1194 大井川ゐせきの水のわくらばに今日は頼めしくれにやはあらぬ
おおいがわ いせきのみずの わくらばに きょうはたのめし くれにやワあらぬ
大井川の流れを堰き止める所で水が湧き立つように、川を流れる榑ではないですが、思いかけず今日は逢うと期待させてくれた、暮れではないのですか。
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1195 夕暮れに命かけたるかげろふのありやあらずや問ふもはかなし
ゆうぐれに いのちかけたる かげろうの ありやあらずや とうもはかなし
夕暮れ時、今日は逢えるかどうかと、命をかけてる蜻蛉のような私に、生きてる否かと問うてくるなんて儚いことですね。
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1196 あぢきなくつらきあらしの声も憂しなど夕暮れに待ちならひけむ
あぢきなく つらきあらしの こえもうし などゆうぐれに まちならいけん
思うようにならなくて辛いので、嵐の音も切なくて苦しい。どうして夕暮れになると待つ、ということに慣れてしまったのだろうか。
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1197 頼めずは人を待乳の山なりと寝なましものをいざよひの月
たのめずワ ひとをまつちの やまなりと ねなましものを いざよいのつき
期待させてくれないなら、恋人を待つ待乳山であっても寝てしまうものを、ためらうように十六夜の月は出たけど、あの人はやはり…。
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1198 何ゆゑと思ひも入れぬ夕べだに待ち出でしものを山の端の月
なにゆえと おもいもいれぬ ゆうべだに まちいでしものを やまのはのつき
どうしてかなと深く考えもしなかった夕べでさえ、待ちに待って出た山の端の月です。今はあの人と逢うのが待たれて、月が出るのを待ちに待ってます。
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1199 聞くやいかにうはの空なる風だにも松に音する習ひありとは
きくやいかに うわのそらなる かぜだにも まつにおとする ならいありとワ
聞いてますか、どうでしょうね。空の上を吹く当てにならない風でも、待っていれば松に吹いて来て音を立てるのは世の常なのに。私はずっと待っているのですよ。
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1200 人は来で風のけしきも更けぬるにあはれに雁のおとづれてゆく
ひとワこで かぜのけしきも ふけぬるに あわれにかりの おとずれてゆく
あの人は来ず。風の吹く様子も更けてきたと思わせるときに、あわれさをそそる様に雁が鳴きながら飛んで行きます。
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1201 いかが吹く身にしむ色の変るかな頼むる暮れの松風の声
いかがふく みにしむいろの かわるかな たのむるくれの まつかぜのこえ
どのように吹いているのでしょうか。身に染みる音色がいつもと違ってます。あの人の訪れを感じさせる夕暮れの松風の音は。
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1202 頼めおく人も長等の山にだにさ夜更けぬれば松風の声
たのめおく ひともながらの やまにだに さよふけぬれば まつかぜのこえ
訪れを当てにさせるような人もいないこの長等山でさえ、夜が更けると松風の音が聞こえます。あの人の訪れを待つ私の心を感じているように。
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1203 今来むと頼めしことを忘れずはこの夕暮れの月や待つらむ
いまこんと たのめしことを わすれずワ このゆうぐれの つきやまつらん
すぐに行くよ、という期待させるようなことを言ったのを忘れてなかったら、あの人は、この夕暮れに出る月を待っているのでしょうか。
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1204 君待つとねやへも入らぬ真木の戸にいたくな更けそ山の端の月
きみまつと ねやへもいらぬ まきのとに いたくなふけそ やまのはのつき
あの人を待って、寝所にも入らないで、閉ざさないままの真木の戸に、非情にも夜が更けたことを知らせる光を刺さないでおくれ山の端の月よ。
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1205 頼めぬに君来やと待つ宵のまの更けゆかでただ明けなましかば
たのめぬに きみくやとまつ よいのまの ふけゆかでただ あけなましかば
約束したわけではないけれど、ひょっとしたらあの人が来るのではないかと待っている夜が、更けていかないで、ただもう明けてしまわないかなあ。
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1206 帰るさのものとや人のながむらむ待つ夜ながらの有明の月
かえるさの ものとやひとの ながむらん まつよながらの ありあけのつき
家に帰る時のものとして、あの人は眺めているのでしょうか。私が夜通し訪れを待ち続けてた時に迎えた有明の月を。
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1207 君来むといひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひつつぞ経る    伊勢物語二十三段
きみこんと いいしよごとに すぎぬれば たのまぬものの こいつつぞふる
あの人が、来ようと言うばかりで度々来ないので、待つばかりの夜を過ごしてしまい、今ではもう当てにしてないけれど、恋慕いながら過ごしています。
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1208 衣手に山おろし吹きて寒き夜を君来まさずはひとりかも寝む
ころもでに やまおろしふきて さむきよを きみきまさずワ ひとりかもねん
袖に山おろしが吹いてきて寒い夜を、あの人が来ないのなら一人で寂しく寝ることになるのでしょうか。
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1209 逢ふことはこれや限りのたびならむ草の枕も霜がれにけり
おおことワ これやかぎりの たびならん くさのまくらも しもがれにけり
お逢いするのは、今回が最後の旅寝ということでしょうか。草を結んで作った枕も夜離れを思わせるように霜枯れてしまいました。
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1210 馴れゆくは憂き世なればや須磨の海人の塩焼き衣まどほなるらむ
なれゆくワ うきよなればや すまのあまの しおやきころも まどおなるらん
馴れると飽きてくるのは、この世の常なので、須磨の海人が着る塩焼き衣の織り目が荒いように間遠くなっているのでしょうか。
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1211 霧深き秋の野中の忘れ水絶えまがちなる頃にもあるかな
きりふかき あきののなかの わすれみず たえまがちなる ころにもあるかな
霧が深く立ち込める野の中にある、人に知られないで絶え絶えに流れる水のように、あの人の来訪も途絶えがちになっている今日この頃ですね。
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1212 世の常の秋風ならば荻の葉にそよとばかりの音はしてまし
よのつねの あきかぜならば おぎのはに そよとばかりの おとワしてまし
世の常ならば、秋風が吹けば荻の葉にそよというくらいの吹く音がするのに。あの人からは、そよという程の音沙汰もないのです。
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1213 足引きの山のかげ草結びおきて恋ひやわたらむ逢ふよしをなみ
あしびきの やまのかげぐさ むすびおきて こいやわたらん あう縁を無み
山の陰に生えた草を結んでおいて、恋い続けるのでしょうか、逢うすべもないので。
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1214 東路に刈るてふ茅の乱れつつつかのまもなく恋ひやわたらむ
あずまぢに かるちょおかやの みだれつつ つかのまもなく こいやわたらん
東国で刈るという茅の乱れるように私の恋も乱れて、ずっと恋い続けるのでしょうか。
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1215 結びおきし袂だに見ぬ花すすき枯れるともかれじ君し解かずは
むすびおきし たもとだにみぬ はなすすき かれるともかれじ きみしとかずワ
あなたの袂に結んでおいた花すすき、その袂を見たりしませんし、たとえ枯れても私は離れることはありません。あなたがその結んだ花すすきを解かなければ。
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1216 霜の上に今朝降る雪の寒ければ重ねて人をつらしとぞ思ふ
しものうえに けさふるゆきの さむければ かさねてひとを つらしとぞおもふ
霜の上に今朝降る雪がさらに寒くて耐え難さが重なります。そのように度重ねてあの人を情けのない人と思います。
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1217 一人伏す荒れたる宿の床の上にあはれ幾夜の寝覚めしつらむ
ひとりふす あれたるやどの とこのうえに あわれいくよの ねざめしつらん
一人寝するこの荒れはてた家で、全くもって幾夜夜中に目が覚めてしまったことか。
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1218 山城の淀の若薦かりに来て袖濡れぬとはかこたざらなむ
やましろの よどのわかこも かりにきて そでぬれぬとかワ かこたざらなん
山城の淀の若薦を狩りに来てではないが、一時の気まぐれにやって来て、あなたを思って涙して袖が濡れた、などとぶつぶつ言わないでね。
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1219 かけて思ふ人もなけれど夕されば面影絶えぬ玉かづらかな
かけておもう ひともなけれど ゆうされば おもかげたえぬ たまかずらかな
私のことを心にかけて思ってくれる人はいないけど、夕方になると、面影が絶えることなく浮かび上がるよ、恋しい人。
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1220 偽りを糺すの森のゆふだすき掛けつつ誓へわれを思はば
いつわりを ただすのもりの ゆうだすき かけつつちかえ われをおもわば
偽りごとを問いただす下賀茂社の森の川合社の木綿襷を掛けて神の恩名にかけて誓いなさい。私を思っているのなら。
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1221 いかばかりうれしからましもろともに恋ひらるる身も苦しかりせば
いかばかり うれしからまし もろともに こいらるるみも くるしかりせば
どれほど嬉しいことか。私と同じように私に思われるあなたも同じように苦しかったならば。
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1222 わればかりつらきを忍ぶ人やあるといま世にあらば思ひ合はせよ
わればかり つらきをしのぶ ひとやあると いまよにあらば おもいあわせよ
私ほどあなたの非情さに耐え忍ぶ人がいるか、さあ生き長らえたなら他の人と比べてみてください。
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1223 ただ頼めたとへば人の偽りを重ねてこそはまたも恨みめ
ただたのめ たとえばひとの いつわりを かさねてこそワ またもうらみめ
ただ頼みにしなさい。恋しい人の言葉を。たとえそれが偽りであっても。でも偽りを重ねた時こそは、改めて恨みましょう。
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1224 つらしとは思ふものから伏柴のしばしもこりぬ心なりけり
つらしとワ おもうものから ふししばの しばしもこりぬ こころなりけり
あなたの非情さを辛いと思うものの、伏柴ではないが、しばしも懲りずにあなたのことを思い続ける心なんです。
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1225 頼めこし言の葉ばかりとどめおきて浅茅が露と消えなましかば
たのめこし ことのはばかり とどめおきて あさじがつゆと きえなましかば
頼りとしてきたあなたの言葉だけをこの世において、浅茅の露と消えてしまったら。あなたはいかに思いますか。
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1226 あはれにも誰かはつゆも思はまし消え残るべきわが身ならねば
あわれにも だれかワつゆも おもわまし きえのこるべき わがみならねば
あわれだと、だれが少しも思うものですか。あなたが亡くなった後に生き永らえているわが身ではないですから。
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1227 つらきをも恨みぬわれに習ふなよ憂き身を知らぬ人もこそあれ
つらきをも うらみぬわれに ならうなよ うきみをしらぬ ひともこそあれ
あなたの非情さを恨んだりしない私に慣れて、皆そうだと思わないでください。憂き身を悟らないで、あなたを恨んだりする人もいるかもしれません。
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1228 何かいとふよも永らへじさのみやは憂きに堪へたる命なるべき
なにかいとう よもながらえじ さのみやワ うきにたえたる いのちなるべき
どうしてこの世を嫌うのでしょか。生き永らえることなどできないのです。それ程までに辛い思いに堪えていられる命であるはずがありません。
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1229 恋ひ死なむ命はなほも惜しきかなおなじ世にあるかひはなけれど
こいしなん いのちワなおも おしきかな おなじよにある かいワなけれど 
恋のために病気になって死んでしまいそうですが、やはり命は惜しいですよね。あの人と同じ世に生きてる甲斐はなくても。
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1230 あはれとて人の心のなさけあれな数ならぬにはよらぬ歎きを
あわれとて ひとのこころの なさけあれな かずならぬにワ よらぬなげきを
あわれだなと言って、あの人の心に思いやりがあればなあ。ものの数に入らない身であるということに基づかない嘆きなんですから。
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1231 身を知れば人のとがとは思はぬに恨みがほにも濡るる袖かな
みをしれば ひとのとがとワ おもわぬに うらみがおにも ぬるるそでかな
身の程を知っているので、冷たくされるのもあの人のとがむべき行為とは思いません。ですから恨めしそうな顔つきをしてても袖は涙で濡れているんですよ。
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1232 よしさらば後の世とだに頼めおけつらさに堪えぬ身ともこそなれ
よしさらば のちのよとだに たのめおけ つらさにたえぬ みともこそなれ
よし。しからば、来世でお会いできるであろうと期待させてください。あなたの冷たさに耐えられなくて死んでしまいそうな私なので。
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1233 頼めおかむたださばかりを契りにて憂き世の中の夢になしてよ
たのめおかん たださばかりを ちぎりにて うきよのなかの ゆめになしてよ
お約束しておきます。ただ、その約束だけを私たちの関係として、今までの私たちのことはこの憂き世で見た夢ということにしてください。
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