和歌番号 |
和歌 |
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0857 |
たまぼこの道の山風寒からば形見がてらに着なむとぞ思う |
たまぼこの みちのやまかぜ さむからば かたみがてらに きなんとぞおもう |
道中において山風が寒かったらこの衣服を着てください。そして私を思い起こすよすがにしてください。 |
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0858 |
忘れなむ世にも越路の帰山いつはた人に逢はむとすらむ |
わすれなん よにもこしぢの かえるやま いつはたひとに あわんとすらん |
忘れてしまいましょう。どんなことがあっても帰って来ないでしょうから。遠い越路の帰山・五幡山から、いつまた帰って来て逢うつもりなんでしょう。 |
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0859 |
北へゆく雁のつばさに言伝よ雲の上書きかき絶えずして |
きたへゆく かりのつばさに ことづたえよ くものうわがき かきたえずして |
北へ帰っていく雁の翼をかりて便りをください。雲の上を掻くように何度も書いて下さいね。 |
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0860 |
秋霧のたつ旅衣おきて見よ露ばかりなる形見なりとも |
あきぎりの たつたびごろも おきてみよ つゆばかりなる かたみなりとも |
秋霧がたつ頃に旅立つあなたに贈る私が裁った着物をそばに置いて見てくださいね。露みたいな思い出の品ですが。 |
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0861 |
見てだにも飽かぬ心をたまぼこの道の奥まで人のゆくらむ |
みてだにも あかぬこころを たまぼこの みちのおくまで ひとのゆくらん |
お会いするだけでも嬉しく思っている人ですのに陸奥の奥まで行ってしまわれるのですね。 |
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0862 |
逢坂の関にわが宿なかりせば別るる人は頼ばざらまし |
おおさかの せきにわがやど なかりせば わかるるひとワ たのばざらまし |
逢坂の関の近くに私の家がなかったらそれっきりでしょうが、此処にいるお陰で旅立つ人とまたお会いできるでしょうね。 |
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0863 |
着慣らせと思ひしものを旅衣たつ日を知らずなりにけるかな |
きならせと おもいしものを たびごろも たつひをしらず なりにけるかな |
いつも着て、身になれさせて下さいと思ってこの着物を裁って縫いましたが、旅立つ日を知りませんでした・ |
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0864 |
これやさは雲のはたてに織ると聞くたつこと知らぬ天の羽衣 |
これやさワ くものはたてに おるときく たつことしらぬ あまのはごろも |
「たつ」ことを知らないということは、それではこれが、雲のはてにて天人が機を織ると言われてる裁つ必要のない天の羽衣なのですね。 |
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0865 |
衣川みなれし人の別れには袂までこそ波はたちけれ |
ころもがわ みなれしひとの わかれにワ たもとまでこそ なみワたちけれ |
見慣れている衣川のように慣れ親しんだ人とのお別れは、袂にまで涙の波が立ちましたよ。 |
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0866 |
行く末に阿武隈川のなかりせばいかにかせましけふの別れを |
いくすえに あぶくまがわの なかりせば いかにかせまし きょうのわかれを |
これから行く先に阿武隈川がなかったら、一体どうしたらいいのでしょう、今日のお別れを。でも阿武隈川がありますから逢うこともありますね。 |
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0867 |
君にまた阿武隈川を待つべきに残り少なきわれぞかなしき |
きみにまた あぶくまがわを まつべきに のこりすくなき われぞかなしき |
阿武隈川の名前が示すようにあなたにまたお逢い出来る時を待つべきですが、やはり残り少ない人生の私には悲しいことです。 |
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0868 |
涼しさは生の松原まさるとも添ふる扇の風な忘れそ |
すずしさワ いきのまつばら まさるとも そうるおおぎの かぜなわすれそ |
涼しさは松原に吹く松風のほんまもんの方がすぐれてますが、またお会いできますように餞別に添えて渡すこの扇の風を忘れないでね。 |
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0869 |
神無月まれのみゆきに誘はれてけふ別れなばいつか逢ひ見む |
かんなづき まれのみゆきに さそわれて きょうわかれなば いつかあいみん |
深雪はまれな10月の御幸に招かれて一緒に随行しましたが、今日お別れしましたらいつまたお会いできるでしょうか。 |
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0870 |
別れてののちも逢ひ見むと思へどもこれをいづれの時とかは知る |
わかれての のちもあいみんと おもえども これをいづれの ときとかワしる |
お別れした後もまたお会いできると思ってますが、それが何時のことと知ることができるのでしょう。 |
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0871 |
もろこしもあめの下にぞありと聞く照る日の本を忘れならざむ |
もろこしも あめのしたにぞ ありときく てるひのもとを わすれならざん |
宋の国も雨の降る天の下にあると聞きます。宋に渡っても日の照る故国を忘れないでください。 |
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0872 |
分かれ路はこれや限りの旅ならむさらにいくべき心地こそせね |
わかれじワ これやかぎりの たびならん さらにいくべき ここちこそせね |
この度のお別れはこれが最後となり、私の旅もこれが最後になるのでしょうか。どうしても出発するような気持ちになれません。 |
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0873 |
天の川空にきえにし舟出にはわれぞまさりて今朝はかなしき |
あまのかわ そらにきえにし ふなでにワ われぞまさりて けさワかなしき |
七夕の翌朝、1年に一度の逢瀬のあと船出していく牽牛を見送る織姫より、遠地へ赴く父を見送る娘の私の方がもっと別れが悲しいです。 |
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0874 |
別れ路はいつも嘆きの絶えせぬにいとどかなしき秋の夕暮れ |
わかれじワ いつもなげきの たえせぬに いとどかなしき あきのゆうぐれ |
旅立つ人とのお別れはいつも嘆かわしいものですが、今はもう秋、ますます悲しさを深くさせる秋の夕暮れです。 |
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0875 |
とどまらむことは心にかなへどもいかにかせまし秋の誘ふを |
とどまらん ことワこころに かなえども いかにかせまし あきのさそうを |
留まりたいとという気持ちのままになれるならそうしたいけど、どうしたらいいのでしょうか、秋が一緒に去って行こうと誘うのを。 |
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0876 |
都をば秋とともにぞ立ちそめし淀の川霧いくよ隔てつ |
みやこをば あきとともにぞ たちそめし よどのかわぎり いくよへだてつ |
秋が立ち去って行くのと同じ時期に旅立ちましたが、淀の川霧は幾夜立ってあなたと私を隔てたのでしょう。 |
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0877 |
思ひ出でばおなじ空とは月を見よほどは雲居にめぐり逢ふまで |
おもいいでば おなじそらとワ つきをみよ ほどわくもいに めぐりあうまで |
私のことを思い出したら、同じ空のもとで私も同じ月を見ていると思って月を見てください。月が巡るようにあなたともまた宮中で再会できますように。 |
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0878 |
帰り来むほど思ふにも武隈のまつわが身こそいたく老いぬれ |
かえりこん ほどおもうにも たけくまの まつわがみこそ いたくおいぬれ |
あなたが陸奥の国から帰京されることを思うにつけ、武隈の松ではありませんが、お待ちしている私がすっかり年をとってしまいました。 |
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0879 |
思へども定めなき世のはかなさにいつを待てともえこそ頼めね |
おもえども さだめなきよの はかなさに いつをまてとも えこそたのめね |
願ってはいるけれど、どうなるか分からない定めなきこの世は、はかないから、いつ戻るからとあてにさせることはできないよ。 |
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0880 |
ちぎりおくことこそさらになかりしかかねて思ひし別れならねば |
ちぎりおく ことこそさらに なかりしか かねておもいし わかれならねば |
あなたとは、まったく何も約束しておかなかったですね。かねてから考えていたお別れではないので。あまりに急な旅立ちなもので...。 |
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0881 |
かりそめの別れとけふを思へどもいさやまことの旅にもあるらむ |
かりそめの わかれときょうを おもえども いさやまことの たびにもあるらん |
またお会いできますよ、今日のあなたとのお別れは一時的なものと思ってますが、まさかひょっとしたら今生のお別れの旅になるかもしれません。 |
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0882 |
帰り来むほどをや人に契らまし偲ばれぬべきわが身なりせば |
かえりこん ほどをやひとに ちぎらまし しのばれぬべき わがみなりせば |
帰ってくる頃をお知らせしますよ。もし私があなたにとって懐かしく思ってもらえるのでしたら。 |
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0883 |
誰としも知らぬ別れのかなしきは松浦の沖を出づる舟人 |
だれとしも しらぬわかれの かなしきワ まつうらのおきを いづるふなびと |
特定の人のことではないけれど、別れが悲しいのは、唐津の松浦から出航して宋に行く船に乗っている人との別れ。 |
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0884 |
はるばると君が分くべき白波をあやしやとまる袖に懸けつる |
はるばると きみがわくべき しらなみを あやしやとまる そでにかけつる |
遠路はるばるとこれからあなたが乗って行く舟の分ける白波が、奇妙ですね、留まっている私の袖にかけるとは。涙でぐしょぐしょです。 |
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0885 |
君いなば月待つとてもながめやらむ東の方の夕暮れの空 |
きみいなば つきまつとても ながめやらん ひがしのかたの ゆうぐれのそら |
あなたが陸奥に行ってしまわれたら、月が出てくるのを待ってますとでも言って眺めています。東の方の夕暮れの空を。 |
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0886 |
頼めおかむ君も心やなぐさむと帰らむことはいつとなくとも |
たのめおかん きみもこころや なぐさむと かえらんことワ いつとなくとも |
期待を持たせて置きましょう。そうすればあなた方の気持ちも慰められるでしょう。いつ帰って来るか本当のことは分からないですが。 |
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0887 |
さりともとなほ逢うことを頼むかな死出の山路を超えぬ別れは |
さりともと なおあうことを たのむかな しでのやまぢを こえぬわかれワ |
そのようなことでも再び会えることを期待してます。死出の山路を超えるのではないこの世の別れでは。 |
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0888 |
帰り来むほどを契らむと思へども老いぬる身こそ定めがたけれ |
かえりこん ほどをちぎらんと おもえども おいぬるみこそ さだめがたけれ |
いつ帰って来るか約束をしたいのですが、この老いた身ではいつどうなることやら無事に戻って来られるか定めるのは難しいです。 |
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0889 |
かりそめの旅の別れと忍ぶれど老は涙もえこそとどめね |
かりそめの たびのわかれと しのぶれど おいワなみだも えこそとどめね |
一時的な旅の別れと悲しみは耐えることはできるけど、年老いた、いつ今生の別れとなるか分からないことも、涙も抑えることはできません。 |
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0890 |
別れにし人はまたもや三輪の山すぎにし方を今になさばや |
わかれにし ひとワまたもや みわのやま すぎにしかたを いまになさばや |
別れてしまった人とまた見ることができるのでしょうか。過ぎてしまった過去を今にしたいなあ。 |
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0891 |
忘るなよ宿る袂はかはるともかたみに絞る夜はの月影 |
わするなよ やどるたもとワ かわるとも かたみにしぼる よわのつきかげ |
忘れないでくださいね。涙や月が宿る袂が変わっても、涙にくれながら濡らした袂に宿る今宵の夜半の月の光を。 |
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0892 |
なごり思ふ袂にかねて知られけり別るる旅の行末の露 |
なごりおもう たもとにかねて しられけり わかるるたびの ゆくすえのつゆ |
名残惜しさに流す涙でぬれた袂によって前もって分かりました。これからお別れして旅立つ先の露の深さを。 |
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0893 |
都をば心を空に出でぬとも月見むたびに思ひおこせよ |
みやこをば こころをそらに いでぬとも つきみんたびに おもいおこせよ |
心がうつろなままで都を出て行ったとしても、月を見るたびに都にいる私を思い出してください。 |
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0894 |
別れ路は雲居のよそになりぬともそなたの風の便りすぐすな |
わかれじワ くもいのよそに なりぬとも そなたのかぜの たよりすぐすな |
お別れして行く先は、はるかに離れた遠方になってしまいますが、あなたからの風に乗ってのお便りを終わらせないでください。待ってます。 |
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0895 |
色深く染めたる旅の狩衣かへらむまでの形見とも見よ |
いろふかく そめたるたびの かりごろも かえらんまでの かたみともみよ |
あなたのことを思って深い色に染めた旅の衣です。色あせてしまっても帰ってくる時までの間の私の形見として見てください。 |
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