和歌番号 |
和歌 |
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0757 |
末の露本の雫や世の中のおくれ先立つためしならなむ |
すえのつゆ もとのしずくや よのなかの おくれさきだつ ためしならなん |
葉末に置く露や根元に落ちる雫も世の中のものは遅かれ早かれ滅びていくことの一つの例なんでしょうか。 |
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0758 |
あはれなりわが身のはてやあさ緑つひには野辺の霞と思へば |
あわれなり わがみのはてや あさみどり ついにワのべの かすみとおもえば |
あわれですね。我が亡き後は、荼毘に付されて、浅緑色の煙となって立ち昇り、最後は野辺の霞となってしまうことを思うと。 |
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0759 |
桜散る春の末にはなりにけり雨間も知らぬながめせしまに |
さくらちる はるのすえにワ なりにけり あままもしらぬ ながめせしまに |
桜の散る春の末になってしまいました。ずっと降り続く雨を物思いに沈んで眺めている間に。 |
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0760 |
墨染めのころも憂き世の花ざかり折忘れても折りてけるかな |
すみぞめの ころもうきよの はなざかり おりわすれても おりてけるかな |
皆が墨染めの衣を着て喪に服している頃、世は花盛りの季節。今まで枝を折り忘れていたが、この悲しみの折に折ってしまいましたよ。 |
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0761 |
飽かざりし花をや春も恋ひつらむありし昔を思ひ出でつつ |
あかざりし はなをやはるも こいつらん ありしむかしを おもいでつつ |
いくら見ても飽きることのない花を喪に服する時であっても春も恋しがってるのでしょうか。御君のありし昔を思い出しながら。 |
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0762 |
花桜まだ盛りにて散りにけむ歎きのもとを思ひこそやれ |
はなざくら まださかりにて ちりにけん なげきのもとを おもいこそやれ |
桜花はまだ盛りなのに散ってしまった。まだ若くて美しかった方を亡くされてご遺族の歎きをお察しいたします。 |
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0763 |
花見むと植ゑけむ人もなき宿の桜は去年の春ぞ咲かまし |
はなみんと うえけんひとも なきやどの さくらはこぞの はるぞさかまし |
花を見ようと桜の木を植えた人も亡くなり、主のいなくなってしまった家の桜は去年の春に咲けばよかったのに。 |
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0764 |
たれもみな花の都に散りはててひとりしぐるる秋の山里 |
たれもみな はなのみやこに ちりはてて ひとりしぐるる あきのやまざと |
皆それぞれに活気あふれる都に戻ってしまい、一人で秋の山里の時雨ののなかで涙しています。 |
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0765 |
花見てはいとど家路ぞ急がれぬ待つらむと思ふ人しなければ |
はなみてワ いとどいえじぞ いそがれん まつらんとおもう ひとしなければ |
ただでさえ桜を見ていると家に帰りたくないものだが、家で待っていてくれてるはずの妻が亡くなりますます家路を急ぐ気になれません。 |
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0766 |
春霞かすみし空のなごりさへけふをかぎりの別れなりけり |
はるがすみ かずみしそらの なごりさえ きょうをかぎりの わかれなりけり |
荼毘に付した煙が霞となって春霞の空におもかげを残していたのに、春も終わる今日でもって母とお別れしないといけないのですね。 |
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0767 |
立ち昇るけぶりをだにも見るべきに霞にまがふ春のあけぼの |
たちのぼる けぶりをだにも みるべきに かすみにまがう はるのあけぼの |
立ち昇る荼毘の煙だけでも兄の形見として見ることが出来るのに、それすら霞に紛れてはっきり見えない春の曙です。 |
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0768 |
形見とて見れば歎きの深見草なになかなかのにほひなるらむ |
かたみとて みればなげきの ふかみぐさ なになかなかの にほいなるらん |
亡き殿の形見として見れば、歎きが深くなる深見草なのに、なぜこんなに美しい色で咲いているのでしょう。 |
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0769 |
あやめ草誰しのべとか植ゑおきて蓬かもとの露と消えけむ |
あやめぐさ だれしのべとか うえおきて よもぎがもとの つゆときえけん |
誰を偲べとあやめ草を植えておいて、自分は蓬の根元の露のようにはかなく消えてしまったのでしょう。 |
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0770 |
けふ来れどあやめも知らぬ袂かな昔を恋ふるねのみかかりて |
きょうこれど あやめもしらん たもとかな むかしをこふる ねのみかかりて |
今日は端午の節句ですが、菖蒲ならぬ文目のごとく分別もつかない袂です。昔を懐かしんで菖蒲の根ならぬ泣き音ばかりかかって...。 |
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0771 |
あやめ草引きたがへたる袂には昔を恋ふるねぞかかりける |
あやめぐさ ひきたがえたる たもとにワ むかしをこふる ねぞかかかりける |
菖蒲を引き違えたように今までとすっかり変わり墨染めの衣の袂には御君のお元気だった頃を懐かしむ泣く音がかかっています。 |
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0772 |
さもこそはおなじ袂の色ならぬ変らぬねをもかけてけるかな |
さもこそワ おなじたもとの いろならぬ かわらぬねをも かけてけるかな |
いかにも私の袂の色とあなたの袂の色は同じです。ですから私も同じように菖蒲の根ではなくて泣き音を袂にかけてますよ。 |
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0773 |
よそなれどおなじ心ぞ通ふべき誰も思ひのひとつならねば |
よそなれど おなじこころぞ かようべき たれもおもいの ひとつならねば |
身内ではありませんが、妻を亡くした者同士の気持ちは同じもにちがいありません。誰もが同じ思いをしているわけではないのですから。 |
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0774 |
ひとりにもあらぬ思ひはなき人も旅の空にやかなしかるらむ |
ひとりにも あらぬおもいワ なきひとも たびのそらにや かなしかるらん |
私だけではない妻を亡くした者の悲しみは、亡き人もあの世への旅の空で思い知って悲しんでいるでしょう。 |
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0775 |
置くと見し露もありけりはかなくて消えにし人を何にたとへむ |
おくとみし つゆもありけり はかなくて きえにしひとを なににたとえん |
はかなく置くものと見る露も残っています。はかなく亡くなった人は何に例えればいいのでしょう。 |
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0776 |
思ひきやはかなく置きし袖の上の露をかたみにかけむものとは |
おもいきや はかなくおきし そでのうえの つゆをかたみに かけんものとワ |
こんなことになるなんて思ったでしょうか。はかなく置いた唐衣の袖の上の露を形見として、貴方も私も共にその袖に涙をかけるとは。 |
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0777 |
浅茅原はかなく消えし草の上の露を形見と思ひかけしや |
あさじはら はかなくきえし くさのうえの つゆをかたみと おもいかけしや |
浅茅原の草の上に置く露を、はかなく亡くなられた人の形見として見るとは思いもかけませんでした。 |
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0778 |
袖にさへ秋の夕べは知られけり消えし浅茅が露をかけつつ |
そでにさえ あきのゆうべは しられけり きえしあさじが つゆをかけつつ |
袖にさえ秋の夕べの哀れさは分かりますよね。浅茅の露が消えるようにお亡くなりになった御君を偲んで涙の露をかけながら。 |
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0779 |
秋風の露の宿りに君をおきて塵を出でぬることぞかなしき |
あきかぜの つゆのやどりに きみをおきて ちりをいでぬる ことぞかなしき |
秋風が露を散らすような無情のこの世にあなたを置いて、私だけがこの世から旅立つことが悲しい。 |
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0780 |
別れけむなごりの袖も乾かぬに置きやそふらむ秋の夕露 |
わかれけん なごりのそでも かわかぬに おきやそうらん あきのゆうつゆ |
死別した悲しみに濡れた袖も乾かない内に、さらに置き添うのでしょうか秋の夕暮れの露が。 |
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0781 |
置きそふる露とともには消えもせで涙にのみも浮き沈むかな |
おきそうる つゆとともにワ きえもせで なみだにのみも うきしずむかな |
置き添う露とともに消えることもなく、毎日泣き暮らしております。 |
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0782 |
女郎花見るに心はなぐさまでいとど昔の秋ぞ恋しき |
おみなえし みるにこころワ なぐさまで いとどむかしの あきぞかなしき |
女郎花を見ても心は慰められないで、共に過ごした昔の秋がたいそう偲ばれます。 |
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0783 |
寝覚めする身を吹きとほす風の音を昔は袖のよそに聞きけむ |
ねざめする みをふきとおす かぜのねを むかしはそでの よそにききけん |
夜中に目を覚まし、わが身を吹き通していく風の音を、昔は共に過ごした人とわが身に関係のない音として聞いていたのだろう。 |
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0784 |
袖濡らす萩の上葉の露ばかり昔忘れぬ虫の音ぞする |
そでぬらす はぎのうわばの つゆばかり むかしわすれぬ むしのねぞする |
私の袖を濡らす萩の上葉に置く露は昔を思い起こさせるが、露ばかりでなくちっとも昔を忘れさせない虫の音もします。 |
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0785 |
さらでだに露けきさがの野辺に来て昔のあとにしをれぬるかな |
さらでだに つゆげきさがの のべにきて むかしのあとに しをれぬるかな |
そうでなくても露深いと言われる嵯峨の野辺に来て、故人の生前を偲び私の袖は露と涙でしおれてしまいました。 |
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0786 |
かなしさは秋の嵯峨野のきりぎりすなほ古里に音をや鳴くらむ |
かなしさワ あきのさがのの きりぎりす なおふるさとに ねをやなくらん |
悲しさは秋の性ですが、嵯峨野のきりぎりすは、やはりふるさとで歎き悲しんで鳴いているのでしょうか。 |
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0787 |
今はさは憂き世のさがの野辺をこそ露消えはてしあとと偲ばめ |
いまはさわ うきよのさがの のべをこそ つゆきえはてし あととしのばめ |
もはやこうなっては、それならば、憂き世の性の悲しみ深い嵯峨野の野辺を、露のように消え果た地として偲びましょう。 |
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0788 |
たまゆらの露も涙もとどまらずなき人恋ふる宿の秋風 |
たまゆらの つゆもなみだも とどまらず なきひとこふる やどのあきかぜ |
ほんの少しの間も露も涙もとどまりません。亡き人を恋しく偲んでいる家の庭に秋風が吹きつけてます。 |
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0789 |
露をだに今は形見の藤衣あだにも袖を吹くあらしかな |
つゆをだに いまワかたみの ふじごろも あだにもそでを ふくあらしかな |
せめて露だけでも、もはやこうなっては形見として喪服に留めておきたいのに、はかなくも袖の涙を吹き散らす嵐です。 |
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0790 |
秋深き寝覚めにいかが思ひ出づるはかなく見えし春の夜の夢 |
あきふかき ねざめにいかが おもいいずる はかなくみえし はるのよのゆめ |
秋も深まった今日この頃の寝覚めの朝に、如何思い出されますでしょうか。短くはかない春の夜の夢のように春に亡くなったあの人のことを。 |
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0791 |
見し夢を忘るる時はなけれども秋の寝覚めはげにぞかなしき |
みしゆめを わするるときワ なけれども あきのねざめワ げにぞかなしき |
春の夜の夢のごとき悲しみを忘れる時はありませんが、秋の寝覚めは本当に悲しいものです。 |
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0792 |
なれし秋のふけし夜床はされながら心の底の夢ぞかなしき |
なれしあきの ふけしよどこは されながら こころのそこの ゆめぞかなしき |
慣れ親しんだ秋の夜更けの床は何も変わらずそのままだけど、あなたとの思い出が私の心の底の夢のようになってしまうのが悲しい。 |
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0793 |
朽ちもせぬその名ばかりをとどめおきて枯野のすすき形見とぞ見る |
くちもせぬ そのなばかりを とどめおきて かれののすすき かたみとぞみる |
不朽の名声だけをこの世に残して、身はこの地に朽ち果てたので、その枯野の薄を形見として見よう。 |
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0794 |
古里を恋ふる涙やひとりゆく友なき山の道芝の露 |
ふるさとを こふるなみだや ひとりゆく ともなきやまの みちしばの露 |
亡き人がこの世を恋しく思うなみだなのだろうか。友も亡くなり一人で行く死出の山路の道芝に置く露は、 |
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0795 |
憂き世には今はあらしの山風にこれやなれゆくはじめなるらむ |
うきよにワ いまワあらしの やまかぜに これやなれゆく はじめなるらん |
憂き世には今はもうとどまっていないと思う嵐山の山風に、これが慣れていくはじめのことなんだと感じます。 |
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0796 |
まれに来る夜はもかなしき松風を絶えずや苔の下に聞くらむ |
まれにくる よわもかなしき まつかぜを たえずやこけの したにきくらん |
たまにしか来ない夜半に吹いても悲しく聞こえる松風を、あなたはいつもお墓の下で聞いてるのですね。 |
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0797 |
物思えば色なき風もなかりけり身にしむ秋の心ならひに |
ものおもえば いろなきかぜも なかりけり みにしむあきの こころならいに |
悲しみに沈むと、色のない秋風も悲しく哀れに感じます。無情の思いが身にしみる秋の常に心を動かされて。 |
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0798 |
古里を別れし秋を数ふれば八年になりぬ有明の月 |
ふるさとを わかれしあきを かぞうれば やとせになりぬ ありあけのつき |
有明の月のころに、この世を去った秋を数えてみると八年になりました。 |
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0799 |
命あれば今年の秋も月は見つ別れし人に逢ふよなきかな |
いのちあれば ことしのあきも つきワみつ わかれしひとに あうよなきかな |
生きているので今年の秋の月を見られます。でも世を去った人に再び逢う夜はありません。 |
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0800 |
けふ来ずは見でややままし山里のもみぢも人も常ならぬ世に |
きょうこずワ みでややままし やまざとの もみじもひとも つねならぬよに |
もし今日来なかったら見ることはなかったのだろうか。山里の紅葉も人も常にあり続けることのないこの世に。 |
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0801 |
思ひ出づるをり焚く柴の夕けぶりむせぶもうれし忘れ形見に |
おもいいづる おりたくしばの ゆうけぶり むせぶもうれし わすれがたみに |
夕方に亡き人を思い出す折り、折って焚く芝の煙にむせて、むせび泣くのもうれしいのです。亡き人の忘れ形見だと思うと。 |
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0802 |
思ひ出づるをり焚く柴と聞くからにたぐひ知られぬ夕けぶりかな |
おもいいづる おりたくしばと きくからに たぐいしられぬ ゆうけぶりかな |
夕方に亡き人を思い出す折り、折って焚く芝の煙にむせて、むせび泣くのもうれしいとお聞きして、無比のたぐいまれなるお心持ちですね。 |
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0803 |
なき人の形見の雲やしをるらむ夕べの雨に色は見えねど |
なきひとの かたみのくもや しおるらん ゆうべのあめに いろワみえねど |
亡き人を荼毘に付した煙を形見とした雲が濡れしおれているのだろうか。夕方の雨のためにその様子ははっきりしないが。 |
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0804 |
神無月しぐるるころもいかなれや空に過ぎにし秋の宮人 |
かんなづき しぐるるころも いかなれや そらにすぎにし あきのみやびと |
10月のしぐれる頃の衣はどうなってますか。亡き人を思い、心がうつろなまま秋を過ごしているお仕えしていた人々の。 |
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0805 |
手すさびのはかなき跡と見しかども長き形見になりにけるかな |
てすさびの はかなきあとと みしかども ながきかたみに なりにけるかな |
手慰みの特にどうということもない筆の跡と見ていましたが、これがこれからずっと亡き人を思い出す形見となってしまいました。 |
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0806 |
尋ねても跡はかくても水茎のゆくえも知らぬ昔なりけり |
たずねても あとワかくても みずくきの ゆくえもしらず むかしなりけり |
亡き人の筆の跡は、こうして見ることができますが、水茎が行方も知らないように、昔のことも分からなくなってしまいました。 |
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0807 |
いにしえのなきに流るる水茎の跡こそ袖の浦に寄りけれ |
いにしえの なきにながるる みずくきの あとにこそそでの うらによりけれ |
亡き御君の流れるような筆の跡は手元に集まってますが、見るにつけ泣きの涙が袖の浦に寄ってきます。 |
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0808 |
干しもあへぬ衣の闇にくらされて月ともいはずまどひぬるかな |
ほしもあえぬ ころものやみに くらされて つきともいわず まどひぬるかな |
涙を乾かそうとしてもできない頃、墨染めの喪服に暗くされて、見えにくくなり、月夜にも拘らず道に迷ってしまいました。 |
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0809 |
水底に千々の光は映れども昔の影は見えずぞありける |
みずぞこに ちじのひかりは うつれども むかしのかげワ みえずぞありける |
池の水底に数々の灯明の光は映ってますが、昔のお元気な頃のお姿は見えません。 |
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0810 |
物をのみ思ひ寝覚めの枕には涙かからぬ暁ぞなき |
ものをのみ おもいねざめの まくらにワ なみだかからぬ あかつきぞなき |
悲しみの身で悲しみの思いをもって寝起きしていると、寝覚めの枕が涙で濡れてない夜明けはありません。 |
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0811 |
逢ふことも今はなきねの夢ならでいつかは君をまたは見るべき |
おうことも いまワなきねの ゆめならで いつかワきみを またワみるべき |
お逢いすることも今は無いのですね、泣きながら寝入ってしまって見る夢ではなくていつまたお逢いできるのでしょうか。 |
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0812 |
憂しとては出でにし家を出でぬなりなど古里にわが帰りけむ |
うしとてワ いでにしいえを いでぬなり などふるさとに わがかえりけん |
たいへんはかなくつらい思いですでに出家されているのにさらに家を移られたとのこと。どうして私は実家に戻って来てしまったのでしょう。 |
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0813 |
はかなしといふにもいとど涙のみかかるこの世を頼みけるかな |
はかなしと いうにもいとど なみだのみ かかるこのよを たのみけるかな |
はかないというにつけても大そう涙ばかり降るこの世の中をその意のままに受け入れないといけないのですね。 |
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0814 |
古里にゆく人もがな告げやらむ知らぬ山路にひとりまどふと |
ふるさとに ゆくひともがな つげやらん しらぬやまじに ひとりまどふと |
現世に戻っていく人がいたらなあ。いるわけないけど、もしいたら言付けたい。未知の死出の山路で一人迷っていると。 |
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0815 |
玉の緒の長きためしに引く人も消ゆれば露にことならぬかな |
たまのをの ながきためしに ひくひとも きえゆればつゆに ことならぬかな |
長命の例として例えられる人も、亡くなってしまえば、はかない露と同じことですね。 |
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0816 |
恋わぶと聞きにだに聞け鐘の音にうち忘らるる時の間ぞなき |
こいわぶと ききにだにきけ かねのねに うちわすらるる ときのまぞなき |
あなた恋しさに耐えかねていると、聞くだけでも聞いてください鐘の音を。鐘を打ちながら片時も忘れることはないのです。 |
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0817 |
誰か世にながらへて見む書きとめし跡は消えせぬ形見なれども |
たれかよに ながらえてみん かきとめし あとはきえせぬ かたみなれども |
誰かこの世に長く生きて見ることはあるのでしょうか。亡き人の書き留めた筆の跡は消えないで形見となったとしても。 |
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0818 |
なき人を偲ぶることもいつまでぞけふのあはれはあすのわが身を |
なきひとを しのぶることも いつまでぞ きょうのあわれワ あすのわがみを |
亡き人を偲ぶることも何時までできるのでしょうか。今日は亡き人を哀れに思っても明日はわが身に降りかかるかもしれないのに。 |
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0819 |
なき人の跡をだにとて来て見ればあらぬ里にもなりにけるかな |
なきひとの あとをだにとて きてみれば あらぬさとにも なりにけるかな |
亡き人の旧跡だけでも見てみようと来てみたが、草など生い茂り、昔と全く違った里になってしまってました。 |
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0820 |
見し人のけぶりになりし夕べより名ぞむつましき塩釜の浦 |
みしひとの けぶりになりし ゆうべより なぞむつましき しおがまのうら |
以前から知り合いの人が亡くなり、荼毘にふされて煙となった夕べより、その名前を親しく感じます塩を焼いて煙を立ち昇らせて有名な塩釜の浦を。 |
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0821 |
あはれ君いかなる野辺のけぶりにてむなしき空の雲となりけむ |
あわれきみ いかなるのべの けぶりにて むなしきそらの くもとなりけん |
ああ、御君は、どのような野辺の煙となってこの大空の雲となってしまわれたのでしょう。 |
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0822 |
思へ君燃えしけぶりにまがひなでたちおくれたる春の霞を |
おもえきみ もえしけぶりに まがいなで たちおくれたる はるのかすみを |
察してよ、あなた。御君の荼毘の煙に紛れてしまわないで、立つのが遅れた春の霞のように後に取り残された私のことを。 |
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0823 |
あはれ人けふの命を知らませば難波の蘆に契らざらまし |
あわれびと きょうのいのちを しらませば なにわのあしに ちぎらざらまし |
ああ、あなたは今日はもう生きてないと自分の寿命を知ってたら、難波の蘆に準えてすぐに戻って来ると約束しなかったでしょうに。 |
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0824 |
夜もすがら昔のことを見つるかな語るやうつつありし世の夢 |
よもすがら むかしのことを みつるかな かたるやうつつ ありしよのゆめ |
一晩中昔のことを夢みてました。夢の中で亡き人と語ったことが現実のことだったのでしょうか。そして昔のことが夢だったのでしょうか。 |
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0825 |
映りけむ昔の影や残るとて見るに思ひのます鏡かな |
うつりけん むかしのかげや のこるとて みるにおもいの ますかがみかな |
以前は映っていた亡き人の面影が残っているかと鏡を見ても見えず増々想いが増す真澄鏡です。 |
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0826 |
書きとむる言の葉のみぞ水茎の流れてとまる形見なりける |
かきとむる ことのはのみぞ みずくきの ながれてとまる かたみなりける |
書き留めた言葉の数々だけが、亡き人が水のごとく流れ去ったあとに残と留める形見なんですね。
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0827 |
有栖川おなじ流れは変らねど見しや昔の影ぞ忘れぬ |
ありすがわ おなじながれワ かわらねど みしやむかしの かげぞわすれぬ |
有栖川は流れは同じで変わりませんが、川面に映る昔に見た面影は忘れられません。 |
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0828 |
限りなき思ひのほどの夢のうちは驚かさじと歎きこしかな |
かぎりなき おもいのほどの ゆめのうちワ おどろかさじと なげきこしかな |
この上ない夢のような悲しみに浸っている間は、弔問してお気づかいさせないようにと思い、一人で歎き悲しんでおりました。 |
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0829 |
見し夢にやがてまぎれぬ我が身こそとはるるけふもまづかなしけれ |
みしゆめに やがてまぎれぬ わがみこそ とわるるきょうも まずかなしけれ |
悲しい夢を見ながらそのまま夢にまぎれてしまわない自分自身が、弔問を受けた今日もまず悲しいことです。 |
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0830 |
世の中は見しも聞きしもはかなくてむなしき空のけぶりなりけり |
よのなかワ みしもききしも はかなくて むなしきそらの けぶりなりけり |
世の常として身内であっても他人であっても無常に亡くなり、荼毘に付されて大空の煙となっていくのですね。 |
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0831 |
いつ歎きいつ思ふべきことなればのちの世知らで人の過ぐらむ |
いつなげき いつおもうべき ことなれば のちのよしらで ひとのすぐらん |
どの時に歎いたり、どの時に気を病んだりするべきということで考えると、あの世のことは見当もつかず人々は日々過ごしているようだ。 |
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0832 |
みな人の知りがほにして知らぬかなかならず死ぬるならひありとは |
みなひとの しりがおにして しらぬかな かならずしぬる ならいありとわ |
人はみんな知ったような顔をしてますが本当は知らないのですよ、人は必ず死ぬという世の常であるということを。 |
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0833 |
きのふ見し人はいかにと驚けどなほ長き夜の夢にぞありける |
きのうみし ひとワいかにと おどろけど なおながきよの ゆめにぞありける |
昨日逢った人が急に亡くなったと驚くけれど、まだ無明長夜(むみょうじょうや)のごとく、真理を会得できない迷いの中にいます。 |
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0834 |
蓬生にいつかおくべき露の身はけふの夕暮れあすのあけぼの |
よもぎゅうに いつかおくべき つゆのみワ きょうのゆうぐれ あすのあけぼの |
蓬などの生い茂った荒れた地にいつ横たえるのでしょうか、この露のようなわが身を。今日の夕暮れどき、それとも明日の曙どき。 |
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0835 |
われもいつぞあらましかばと見し人をしのぶとすればいとど添ひゆく |
われもいつぞ あらましかばと みしひとを しのぶとすれば いとどそいゆく |
私もいつ亡くなるのであろうか。生きていてくれたらなあと思う知り合いを偲ぼうとすると、ますますその数が増していきます。 |
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0836 |
尋ねきていかにあはれとながむらむ跡なき山の峰の白雲 |
たずねきて いかにあわれと ながむらん あとなきやまの みねのしらくも |
尋ねて来てどんなに悲しい思いで眺められたことでしょう。亡くなられたあともとどめず、山の峰にかかる白雲を。 |
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0837 |
なきあとの面影をのみ身に添えてさそこは人の恋しかるらめ |
なきあとの おもかげをのみ みにそえて さこそワひとの こいしかるらめ |
亡くなった人の面影だけを貴方の思い出の中に添えて、さぞやその方を恋しく思われることでしょうね。 |
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0838 |
あはれとも心に思ふほどばかりいはれぬべくは問ひこそはせめ |
あわれとも こころにおもう ほどばかり いわれぬべくワ といこそはせめ |
お気の毒にと心に思うことを言葉に出して言うことが出来たらお悔やみの一言も述べに行ったでしょう。悲しみのあまりとてもできなかったのです。 |
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0839 |
つくづくと思へばかなしいつまでか人のあはれをよそに聞くべき |
つくづくと おもえばかなし いつまでか ひとのあわれを よそにきくべき |
思うとつくづく悲しいです。いつまで人が亡くなったことを他人ごとのように聞いていられるのでしょう。 |
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0840 |
おくれゐて見るぞかなしきはかなさを憂き身のあとと何頼みけむ |
おくれいて みるぞかなしき はかなさを うきみのあとと なにたのみけん |
後にとどまり、我が子の墓を見るのは悲しいことだ。このように無常なはかなさなのにどうして私の亡くなった後の墓の場所と予定してたのでしょう。 |
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0841 |
そこはかと思ひ続けて来て見れば今年のけふも袖は濡れけり |
そこはかと おもいつづけて きてみれば ことしのきょうも そでワぬれけり |
何となく思い続けて墓所に来てみると、今年の命日もやはり袖は涙に濡れてます。 |
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0842 |
誰もみな涙の雨にせきかねぬ空もいかがはつれなかるべき |
たれもみな なみだのあめに せきかねぬ そらもいかがワ つれなかるべき |
誰もかれも皆亡き人を偲んで涙を堰きとめかねています。空もどうしてつれないようにしてられますでしょうか。つられて一緒に雨を降らせてます。 |
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0843 |
見し人はよにも渚の藻塩草かきおくたびに袖ぞしをるる |
みしひとワ よにもなぎさの もしおぐさ かきおくたびに そでぞしおるる |
見知った人たちは既に世にいない。渚の藻塩草を掻き集めるように、卒塔婆にその人たちの名前を書くたびに私の袖は涙に濡れしおれます。 |
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0844 |
あらざらむのち偲べとや袖の香を花橘にとどめおきけむ |
あらざらん のちしのべとや そでのかを はなたちばなに とどめおきけん |
あの人は亡くなった後に忍んで欲しいと、袖に焚き染めていた香りを花橘に留め置いたのでしょうか。 |
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0845 |
ありし世にしばしも見ではなかりしをあはれとばかりいひてやみぬる |
ありしよに しばしもみでワ なかりしを あわれとばかり いいてやみぬる |
生きておられた頃はちょっとの間も会わないでいるということはなかったのに、亡くなられた後は、悲しいなあと嘆くと終わってしまいました。 |
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0846 |
問へかしな片敷く藤の衣手に涙のかかる秋の寝覚めを |
とえかしな かたしくふじの ころもでに なみだのかかる あきのねざめを |
お尋ねくださいな。一人寝の喪服の袖に涙が懸かる、秋のうら寂しい寝覚めの朝を迎えている私の所へ。 |
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0847 |
君なくて寄る方もなき青柳のいとど憂き世ぞ思ひ乱るる |
きみなくて よるかたもなき あおやぎの いとどうきよぞ おもいみだるる |
御君の亡き後、、頼より身を寄せる人もなく、青柳の糸が風に吹かれて縒るすべがないように、ますます無常の世の中を思うと心が乱れます。 |
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0848 |
いつのまに身を山がつになしはてて都を旅と思ふなるらむ |
いつのまに みをやまがつに なしはてて みやこをたびと おもうなるらん |
いつのまに私は自分が山の中に住む人のようになって、京の都へ行くことを旅先に行くと思うようになったのでしょうか。 |
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0849 |
久方のあめにしをるる君ゆゑに月日も知らで恋ひわたるらむ |
ひさかたの あめにしおるる きみゆえに つきひもしらで こいわたるらん |
今では天上において治められている御君なので未来永劫お慕い申し上げるでしょう。 |
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0850 |
あるはなくなきは数添ふ世の中にあはれいづれの日まで嘆かむ |
あるワなく なきワかずそう よのなかに あわれいずれの ひまでなげかん |
生きていた人は亡くなり、その亡き人の数も増えていく無常の世の中で、いつの日まで歎き続けるのでしょうか。 |
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0851 |
白玉か何ぞと人の問ひし時露と答へて消なましものを |
しらたまか なにぞとひとの といしとき つゆとこたえて けなましものを |
あれは、「真珠なの、何なの。」と問われた時に、「あれは露ですよ。」と答えて、露のように消えてしまえばよかったのに。一人取り残されてしまった。 |
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0852 |
年経ればかくもありけり墨染めのこは思ふてふそれかあらぬか |
としふれば かくもありけり すみぞめの こワおもうちょう それかあらぬか |
月日がたってみるとこんなこともありましたね。貴方の墨染めの喪服の濃さは、思っていた人の為なのか、そうでなくて別の人の為だったのか。 |
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0853 |
なき人を偲びかねては忘れ草おほかる宿にやどりをぞする |
なきひとを しのびかねてワ わすれぐさ おおかるやどに やどりをぞする |
亡き人を偲びかねて、いっそ忘れてしまおうと、憂いを忘れさせてくれるという忘れ草が多く生えているこのお宅に留まらせて頂きます。 |
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0854 |
くやしくぞのちに逢はむと契りけるけふを限りといはましものを |
くやしくぞ のちにあわんと ちぎりける きょうをかぎりと いわましものを |
残念なことに「後日お会いしましょう。」とお約束しましたが、「今日で最後です。」と言えばよかったものを。 |
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0855 |
墨染めの袖は空にも貸さなくにしぼりもあへず露ぞこぼるる |
すみぞめの そでワそらにも かさなくに しぼりもあえず つゆぞこぼるる |
私の喪服を天空の牽牛と織姫に貸したわけではないのに、別れの悲しさに絞り切れないほどの露の涙がこぼれます。 |
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0856 |
暮れぬまの身をば思はで人の世のあはれを知るぞかつははかなき |
くれぬまの みをばおもわで ひとのよの あわれをしるぞ かつワはかなき |
日が暮れない間だけの無常な存在のわが身を省みず、人の世の悲しさを知るということも考えてみればはかないことですね。 |
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