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年へたる宇治の橋守言問はむ幾代になりぬ水の水上  (巻第七 賀歌743番 清輔朝臣) 2014/10/1−2015/1/21

和歌番号 和歌
0707 高き屋に登りて見ればけぶり立つ民の竈はにぎはひにけり
たかきやに のぼりてみれば けぶりたつ たみのかまどは にぎわいにけり
高殿に登って見渡せば、あちこちから夕飯の準備に竈から煙が立ち昇っているのが見える。民の暮らしは豊かになったなあ。
0708 初春の初子のけふの玉箒手に取るからにゆらぐ玉の緒
はつはるの はつねのきょうの たまばはき てにとるからに ゆらぐたまのお
初春の初めての子の日の今日飾られる、養蚕する家を掃いた玉を飾り付けてあるホウキ。手に取るだけで揺れて鳴る玉の緒です。
0709 子の日してしめつる野辺の姫小松引かでや千代の蔭を待たまし
ねのひして しめつるのべの ひめこまつ ひかでやちよの かげをまたなし
子の日のお祝いをするために標しをした野辺の姫小松。引き抜かないで長い年月を経て常盤の蔭を作るのを待ちましょうか。
0710 君が代の年の数をば白妙の浜の真砂と誰かしきけむ 
きみがよの としのかずをば しろたえの はまのまなごと たれかしきけん
御君の治世の年数を、真っ白な白浜の無数の真砂として誰が敷いたのでしょう。
0711 若菜生ふる野辺といふ野辺を君がため万代しめて摘まむとぞ思ふ
わかなおうる のべというのべを きみがため よろづよしめて つまんとぞおもう
若菜の生えている野辺という野辺を、御君のために永遠に続く世にわたって標をして摘もうと思います。
0712 ゆふだすき千歳をかけて足引きの山藍の色は変らざりけり
ゆうだすき ちとせをかけて あしびきの やまあいのいろは かわらざりけり
神事を行う時に木綿の襷をかけて着る特別の衣の青い色は限りなく変わることはないでしょう。
0713 君が代に逢ふべき春の多ければ散るとも桜あくまでぞ見む
きみがよに あうべきはるの おおければ ちるともさくら あくまでぞみん
長生きされて迎える春が多いでしょうから、今日は散ってもこれからも飽きるほど見ることでしょう。
0714 住の江の浜の真砂をふむ鶴は久しき跡をとむるなりけり
すみのえの はまのまなごを ふむたづワ ひさしきあとを とむるなりけり 
住の江の浜の真砂を踏む鶴は、これからも長く足跡を留め置くのでしょうね。
0715 年ごとに生ひそふ竹の代々を経て変らぬ色を誰とかは見む
としごとに おいそうたけの よよをへて かわらぬいろを たれとかワみん
年ごとに生え増えていく竹の節と節の間のような代、その代を代々経ても変わらない緑の色を誰のことでしょう。
0716 千歳ふる尾上の松は秋風の声こそ変れ色は変らず
ちとせふる おのえのまつワ あきかぜの こえこそかわれ いろワかわらず
限りなく古い尾上の松は、秋風が吹く頃には秋の音に変わるけどその緑の色は変わらないです。
0717 山川の菊の下水いかなれば流れて人の老いを堰くらむ
やまがわの きくのしたみず いかなれば ながれてひとの おいをせくらん
菊水を飲むと不老長寿を保てるという菊の下を流れる山川の水。それ故に、生きていく人の老いを堰きとめるでしょう。
0718 祈りつつなほ長月の菊の花いづれの秋か植ゑて見ざらむ
いのりつつ なおながつきの きくのはな いずれのあきか うえてみざらん
君が代がさらに長く続きますようにと祈りながら、長月(9月)に咲く菊の花をいつか植えて賞美しない秋があるのでしょうか。
0719 山人の折る袖にほふ菊の露うちはらふにも千代は経ぬべし
やまびとの おるそでにおう きくのつゆ うちはらうにも ちよワへぬべし
仙人が手折ると、その袖に匂う菊の露。その露を払う短い間にも千年は経ってしまうでしょう。
0720 神無月もみぢも知らぬ常盤木に万代かかれ峰の白雲
かんなづき もみじもしらぬ ときわぎに よろずよかかれ みねのしらくも
10月になっても紅葉することを知らない常盤木(常緑広葉樹林)に、限りなく続く世にわたって懸かれ峰の白雲よ。
0721 山風は吹けど吹かねど白波の寄する岩根は久しかりけり
やまかぜは ふけどふかねど しらなみの よするいわねワ ひさしかりけり
山風は吹いても吹かなくても、白波が絶えず寄って来る岩の元はずっと変わりませんよ。
0722 曇りなく千歳に澄める水の面に宿れる月の影ものどけし 
くもりなく ちとせにすめる みずのおもに やどれるつきの かげものどけし
曇ることなく千年にわたって澄める池の水の面に宿っている月の光ものどかなことです。
0723 池水の代々に久しく澄みぬれば底の玉藻も光見えけり
いけみずの よよにひさしく すみぬれば そこのたまもも ひかりみえけり
池の水は代々ずっと澄んでいるので、池の底の玉藻もその光が見えます。
0724 君が代の千歳の数も隠れなく曇らぬ空の光にぞ見る
きみがよの ちとせのかずも かくれなく くもらぬそらの ひかりにぞみる
御君の限りなく続く御代も雲に隠れることなく青い空の日の光に見えます。
0725 住の江に生ひそふ松の枝ごとに君が千歳の数ぞこもれる
すみのえに おいそうまつの えだごとに きみがちとせの かずぞこもれる
住ノ江に生えて増えていく松の枝ごとに御君の限りなく続く御代の年数が守られてます。
0726 万代を松の尾山の蔭茂み君をぞ祈るときはかきはに
よろずよを まつのおやまの かげしげみ きみをぞいのる ときワかきワ(常盤堅磐)に 
限りなく続く世を待つ、緑の松の松尾山の木陰が茂っているので、おかげをもって永久不変お栄になるようにと御君をお祈りしますと。
0727 相生の小塩の山の小松原今より千代の蔭を待たなむ
あいおいの おしおのやまの こまつばら いまよりちよの かげをまたなん
二つ並んで生えている小塩山の小松原の小松が今より千年も栄え茂るその影を待っていて欲しい。
0728 子の日する御垣のうちの小松原千代をばほかのものとやは見る 
ねのひする みかきのうちの こまつばら ちよをばほかの ものとやワみる
子の日のお祝いをする宮中を囲っている御垣の内にある小松原、千代の栄えを御垣の外のものと見ることがあるだろうか。
0729 子の日する野辺の小松を移し植ゑて年の緒長く君ぞ引くべき
ねのひする のべのこまつを うつしうえて としのおながく きみぞひくべき
子の日のお祝いをする野辺の小松を移し植えて、長い年月にわたってわが君が根ごと曳かれることでしょう。
0730 君が代は久しかるべし度会や五十鈴の川の流れ絶えせて
きみがよワ ひさしかるべし わたらいや いすずのかわの ながれたえせで
君は代は久しいことでしょう。伊勢国の度会を流れる五十鈴川(御裳濯川)の流れが絶えることなく。
0731 常盤なる松にかかれる苔なれば年の緒長きしるべとぞ思ふ
ときわなる まつにかかれる こけなれば としのおながき しるべとぞおもう
常に緑である松にかかれる苔であるから、長い年月を生きていく道案内になると思います。
0732 君が代に逢へるは誰もうれしきを花は色にも出でにけるかな
きみがよに あえるワたれも うれしきを はなワいろにも いでにけるかな
わが君の御代にお逢いできたことは誰もうれしいことですが、桜の花はその色にもはっきりとその喜びを表しています。
0733 身に代えて花の惜しまじ君が代に見るべき春の限りなければ
みにかえて はなのおしまじ きみがよに みるべきはるの かぎりなければ
わが身の命に代えて桜の花の散るのを惜しんだりしません。君が代がずっと続き、花を見る春は限りなく続くことでしょうから。
0734 あめのした芽ぐむ草木のめもはるに限りも知らぬ御代の末々 
あめのした めぐむくさきの めもはるに かぎりもしらぬ みよのすえずえ
天の下、春雨の恵みのもとで草木の芽が、目も遥か限りなく続き、、わが君の御代は末々まで限りなく続くでしょう。
0735 おしなべて木の芽も春のあさみどり松にぞ千代の色はこもれる
おしなべて このめもはるの あさみどり まつにぞちよの いろワこもれる
すべて一様にして木々の芽も張ってきて、春は一面の浅緑色におおわれてますが、松の緑にこそ千年続くであろうわが君の色が籠ってます。
0736 敷島や大和島根も神代より君がためとや固めおきけむ
しきしまや やまとしまねも かみよより きみがためとや かためおきけん
日本という国も神代の時代からわが君のためにと神々がしっかりと堅めておかれたのだろうか。
0737 濡れて干す玉串の葉の露霜に天照る光幾代へぬらむ
ぬれてほす たまぐしのはの つゆしもに あまてるひかり いくよへぬらん
濡れては干すサカキの葉に置く露や霜に天に照る光が宿って幾代が過ぎたことでしょう。
0738 君が代は千代ともささじ天の戸や出づる月日の限りなければ
きみがよは ちよともささじ あまのとや いづるつきひワ かぎりなければ
わが君の御代を千代ということでも数字を差ししめしたりするまい、天の戸を出て世を照らす月も日も行き詰ってしまうことはないのですから。
0739 わが道を守らば君を守るらむよはひはゆづれ住吉の松
わがみちを まもらばきみを まもるらん よわいワゆずれ すみよしのまつ
住吉の神が私の歌の道を守って下さるなら、わが君を守ってくださるでしょう。それならわが君に齢を譲ってください住吉の松よ。
0740 高砂の松も昔になりぬべしなほ行末は秋の夜の月 
たかさごの まつもむかしに なりぬべし なおゆくすえワ あきのよのつき 
高砂の松もいつかは朽ち果てるでしょう。わが君のさらなる末の友はずっと変わらず照る秋の夜の月です。
0741 藻塩草かくとも尽きじ君が代の数によみおく和歌の浦波
もしおぐさ かくともつきじ きみがよの かずによみおく わかのうらなみ
藻塩草(詠草)をどんだけかき(書き)集めても尽きることはないでしょう。ずっと続くわが君の御代の数と同じように寄せる和歌浦の波は。
0742 うれしさや片敷く袖に包むらむけふ待ちえたる宇治の橋姫
うれしさや かたしくそでに つつむらん きょうまちえたる うじのはしひめ
嬉しさを衣の片袖に包んでいるのでしょうか。ずっと待っていて今日逢うことができた宇治の橋姫は。
0743 年へたる宇治の橋守言問わむ幾代になりぬ水の水上
としへたる うじのはしもり こととわん いくよになりぬ みずのみなかみ
歳のいった宇治の橋守りに尋ねてみましょう。水上から水が流れるようになって幾代になるのでしょうか。
0744 七十にみつの浜松老いぬれど千代の残りはなほぞはるけき
ななそぢに みつのはままつ おいぬれど ちよののこりワ なおぞはるけき
御津の浜に生えている松は70に満つくらい老いぬれたけど、千代に至るまで残りは、まだはるか先のことです。
0745 八百日ゆく浜の真砂を君が代の数に取らなむ沖つ島守
やおかゆく はまのまさごを きみがよの かずにとらなん おきつしまもり
通過するのに800日もかかる砂浜の砂の数をわが君の御代の数として数えてください、沖の島の島守よ。
0746 春日山都の南しかぞ思ふ北の藤波春に逢へとは 
かすがやま みやこのみなみ しかぞおもう きたのふじなみ はるにあえとわ
都の南にある春日山にて、このように思っている。藤原氏北家が繁栄するようにと。
0747 常盤なる吉備の中山おしなべて千歳を松の深き色かな
ときわなる きびのなかやま おしなべて ちとせをまつの ふかきいろかな
変ることのない吉備の中山にある一様に緑である松は千歳を待つことを願って深い色をしてます。
0748 あかねさす朝日の里の日蔭草豊の明りのかざしなるべし
あかねさす あさひのさとの ひかげぐさ とよのあかりに かざしなるべし
近江国の朝日の里のひかげのかずらは、とよのあかりのせちえ(豊明節会)の時に使うかざし(挿頭)となって光を添えるのでしょう。
0749 すべらぎをときはかきはにもる山の山人ならし山かづらせり
すべらぎを ときワかきワ(常盤堅磐)に もるやまの やまびとならし やまかづらせり
天皇を永久に堅固にお守りする守山の仙人のようなひかげのかずらをかざしています。
0750 とやがへる鷹の尾山の玉椿霜をば経とも色は変らじ
とやがえる たかのおやまの たまつばき しもをばふとも いろはかわらじ
鷹の羽が抜け替わる鷹尾山の玉椿は霜が何年も降っても常盤の色は変りませんよ。
0751 曇りなき鏡の山の月を見て明らけき世を空に知るかな
くもりなき かかみのやまの つきをみて あきらけきよを そらにしるかな
少しの曇りもない鏡山に登った明らかな澄んだ月を見て御君の明らかな世を感じ取りますよ。
0752 大江山こえていく野の末遠み道ある世にも逢ひにけるかな 
おおえやま こえていくのの すえとおみ みちあるよにも あいにけるかな
大江山を越えていく生野まで行く道は遠いしその先も続いてる。そのように遥かに続く正しい王道の御代に逢いました。
0753 近江のや坂田の稲を掛け積みて道ある御代の初めにぞ舂く
おうみのや さかたのいねを かけつみて みちあるみよの はじめにぞつく 
近江国の坂田の稲を稲木に掛け積みて正しい王道の御代の初めの大嘗会に臼ずきます
0754 神代よりけふのためとや八束穂に長田の稲のしなひそめけむ
かみよより きょうのためとや やつかほに おさだのいねの しないそめけん
神代の昔から今日の大嘗会のためにと長田の「八束」もある長い稲の穂が重くなってしない始めたのでしょうか。
0755 立ち寄れば涼しかりけり水鳥の青羽の山の松の夕風
たちよれば すずしかりけり みずどりの あおばのやまの まつのゆうかぜ
立ち寄ると涼しいです、やっぱり。水鳥の青い羽を思わせる青羽の山の松葉を吹きぬける夕風は。
0756 常盤なる松井の水をむすぶ手のしづくごとにぞ千代は見えける
ときわなる まついのみずを むすぶての しずくごとにぞ ちよワみえける
常盤の緑である松井の井戸の水をすくう手からこぼれる雫ごとに御君の千代の数が見えますよ。



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