和歌番号 |
和歌 |
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0175 |
春過ぎて夏来にけらし白たへの衣干すてふ天の香久山 |
はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすちょう あまのかぐやま |
春が過ぎて夏が来たようです。天から降りてきたといわれる香久山に羽衣がたなびいています。 |
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0176 |
惜しめどもとまらぬ春のあるものをいはぬにきたる夏衣かな |
おしめども とまらぬはるの あるものを いわぬにきたる なつごろもかな |
行かないでと惜しんでも行ってしまう春があれば、来てもらわなくていい夏が勝手にやって来る。嫌々夏の衣装替え。 |
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0177 |
散りはてて花の蔭なき木の本にたつことやすき夏衣かな |
ちりはてて はなのかげなき このもとに たつことやすき なつごろもかな |
散ってしまい、花の姿も無くなった木の下に、気をもませないで立つことは容易いですし、ひとえになって裁ちやすい夏衣ですね。 |
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0178 |
夏衣着て幾日にかなりぬらむ残れる花はけふも散りつつ |
なつごろも きていくかにか なりぬらん のこれるはなワ きょうもちりつつ/td>
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夏衣を着始めて何日が過ぎたのでしょうか。まだ残っている花は今日も散り続けています。 |
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0179 |
をりふしも移ればかへつ世の中の人の心の花染めの袖 |
おりふしも うつればかえつ よのなかの ひとのこころの はなぞめのそで |
季節が移ったので替えます、世の中の人の心は、花染めのように色あせやすいですが、その花染めの春の衣から夏の衣へと。 |
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0180 |
卯の花のむらむら咲ける垣根をば雲間の月の影かとぞ見る |
うのはなの むらむらさける かきねをば くもまのつきの かげかとぞみる |
卯の花が群がって咲いている垣根を雲の間からもれる月の光と見てしまいます |
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0181 |
卯の花の咲きぬる時は白たへの波もて結へる垣根とぞ見る |
うのはなの さきぬるときは しろたえの なみもてゆえる かきねとぞみる |
垣根に卯の花が咲きほこる時は、白波が波でもって結う垣根のように見てしまいます。 |
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0182 |
忘れめや葵を草に引き結び仮寝の野辺の露のあけぼの |
わすれめや あおいをくさに ひきむすび かりねののべの つゆのあけぼの |
忘れることがあるでしょうか忘れないわ。葵を草枕として引っ張って結んで、仮寝をした野辺の露の降りた曙を |
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0183 |
いかなればそのかみ山の葵草年は経れども二葉なるらむ |
いかなれば そのかみやまの あおいぐさ としワふれども ふたばなるらん |
どうして上賀茂神社の背後にある神山の葵は年を経ても二葉のままの若さなの。 |
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0184 |
野辺はいまだあさかの沼に刈る草のかつ見るままに茂る頃かな |
のべワいまだ あさかのぬまに かるくさの かつみるままに しげるころかな |
野辺に茂る夏草はまだ浅いけど、その一方で安積の沼で刈る草の花かつみは、見ているうちに茂っている頃なんでしょうね。 |
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0185 |
桜麻のをふの下草茂れただあかで別れし花の名なれば |
さくらをの おうのしたくさ しげれただ あかでわかれし はなのななれば |
桜麻という名をもつ麻畑の下草。ただただ茂ってくださいね。飽きて別れたわけじゃない桜の名を持ってるんですから。 |
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0186 |
花散りし庭の木の葉も茂りあひて天照る月の影ぞまれなる |
はなちりし にわのこのはも しげりあいて あまてるつきの かげぞまれなる |
花が散った後の庭の木々の葉も大きく茂って、空に照る月の光もたまにしかもれてきません。 |
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0187 |
かりに来と恨みし人の絶えにしを草葉につけてしのぶ頃かな |
かりにきと うらみしひとの たえにしを くさばにつけて しのぶころかな |
時間があった時だけやって来た恨めしい人がまったく来なくなってしまったのを、生い茂っている草葉を見るつけ懐かしむこの頃です。 |
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0188 |
夏草は茂りにけりなたまぼこの道行き人も結ぶばかりに |
なつくさワ しげりにけりな たまぼこの みちゆきひとも むすぶばかりに |
夏草はよく茂ったなあ。道行く人が道しるべに玉結びが出来るほどにです。 |
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0189 |
夏草は茂りにけれどほととぎすなどわが宿に一声もせぬ |
なつくさワ しげりにけれど ほととぎす などわがやどに ひとこえもせず |
夏草はよく茂ったけれど、ほととぎすはどうして我が家に来て一声も鳴かないのでしょう。 |
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0190 |
鳴く声をえやは忍ばぬほととぎす初卯の花の蔭に隠れて |
なくこえを えやばしのばぬ ほととぎす はつうのはなの かげにかくれて |
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初めて咲いた卯の花の蔭に隠れてほととぎすがどうして我慢出来ようか出来ないなあと鳴きたいのを我慢してます。 |
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0191 |
ほととぎす声待つほどは片岡の杜の雫に立ちや濡れまし |
ほととぎす こえまつほどワ かたおかの もりのしずくに たちやぬれまし |
ほととぎすの鳴き声を待つ間は、片岡の木立の下で立っていて木々の雫にぬれるでしょうね。 |
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0192 |
ほととぎすみ山出づなる初声をいづれの宿の誰か聞くらむ |
ほととぎす みやまいづなる はつこえを いづれのやどの だれかきくらん |
賀茂のお山を出て鳴いたであろうほととぎすの初声をどこの家の誰が聞いているのでしょうか。 |
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0193 |
五月山卯の花月夜ほととぎす聞けどもあかずまた鳴かむかも |
さつきやま うのはなつきよ ほととぎす きけどもあかず またなかんかも |
五月(陰暦の5月)の山に卯の花の満開で白い月夜のように見える中でのほととぎすの声。いくら聞いても飽きないがまた鳴くかな。 |
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0194 |
おのが妻恋ひつつ鳴くや五月やみ神南備山の山ほととぎすs |
おのがつま こいつつなくや さつきやみ かんなびやまの やまほととぎす |
甘南備山の山ほととぎすは自分の妻を恋い慕って鳴くんでしょうか五月の闇夜の中で。 |
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0195 |
ほととぎす一声鳴きていぬる夜はいかでか人のいをやすく寝る |
ほととぎす ひとこえなきて いぬるよワ いかでかひとの いをやすくねる |
ほととぎすが一声だけ鳴いて去って行った夜はどうやったら人は安らかに寝ていられましょうか。 |
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0196 |
ほととぎす鳴きつつ出づるあしひきのやまとなでしこ咲きにけらしも |
ほととぎす なきつついづる あしびきの やまとなでしこ さきにけらしも |
ほととぎすが鳴きながら出てきた山に大和撫子の花が咲いたようです。 |
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0197 |
二声と鳴きつと聞かばほととぎす衣片敷うたた寝はせむ |
ふたこえと なきつときかば ほととぎす ころもかたしき うたたねはせん |
ほととぎすが二声鳴いたと聞いたら、衣を敷いて独り寝でうたた寝でもしますよ。 |
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0198 |
ほととぎすまだうちとけぬ忍び音は来ぬ人を待つわれのみぞ聞く |
ほととぎす まだうちとけぬ しのびねワ こぬひとをまつ われのみぞきく |
ほととぎすのまだ慣れていない声をひそめて鳴く声は、やって来ない人を待つ私だけが聞いています。 |
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0199 |
聞きてしもなほぞ寝られぬほととぎす待ちし夜ごろの心ならひに |
ききてしも なおぞねられぬ ほととぎす まちしよごろの こころならいに |
やっと鳴き声を聞いたのにやっぱり寝られません。幾夜も待ち続けた心の習慣のために。 |
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0200 |
卯の花の垣根ならねどほととぎす月の桂の蔭に鳴くなり |
うのはなの かきねならねど ほととぎす 月のかつらの かげになくなり |
卯の花の垣根ではないけれど、ほととぎすが月夜に月の中にあると言われる葵桂の蔭で鳴いています。 |
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0201 |
昔思ふ草の庵の夜の雨に涙なそへそ山ほととぎす |
むかしおもう くさのいおりの よのあめに なみだなどえそ やまほととぎす |
草庵で昔を様々に思い起こすわが身に夜降る雨がさらに気を湿らしているのに山ほととぎすよ鳴き声を一緒に添えないでおくれ。 |
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0202 |
雨そそく花たちばなに風過ぎて山ほととぎす雲に鳴くなり |
あめそそぐ はなたちばなに かぜすぎて やまほととぎす くもになくなり |
五月雨が降り注いでいる立花の花に風が吹き過ぎて香りを運んでいる時に雲の中で山ほととぎすが鳴いているよ。 |
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0203 |
聞かでただ寝なましものをほととぎすなかなかなりや夜はの一声 |
きかでただ ねなましものを ほととぎす なかなかなりや よわのひとこえ |
鳴き声を聞かないでただ寝てしまったらよかったのに夜半に一声聞いてしまったばかりに中途半端なんですね、寝付けません。 |
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0204 |
誰が里もとひもや来るとほととぎす心の限り待ちぞわびにし |
たがさとも といもやくると ほととぎす こころのかぎり まちぞわびにし |
誰の家にも訪れて来るかとほととぎすを心の限りに待ちましたが待ちくたびれました。 |
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0205 |
夜を重ね待ちかね山のほととぎす雲居のよそに一声ぞ聞く |
よをかさね まちかねやまの ほととぎす くもいのよそに ひとこえぞきく |
幾夜も待ちかねた待兼山のほととぎすが雲のかなたで一声鳴いたのを聞きました。 |
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0206 |
二声と聞かずは出でじほととぎす幾夜明かしの泊りなりとも |
ふたこえと きかずワいでじ ほととぎす いくよあかしの とまりなりとも
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ほととぎすが二声鳴くのを聞かないうちは舩出しないよ。幾夜明石で留まることになってもね。 |
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0207 |
ほととぎすなほ一声は思い出よ老曾の杜の夜はの昔を |
ほととぎす なおひとこえワ おもいでよ おいそのもりの よわのむかしを |
ほととぎす、さらに一声昔を思い出して鳴いておくれ、老曾の杜で夜半に鳴いた昔を。 |
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0208 |
一声は思ひぞあへぬほととぎすたそかれ時の雲のまよひに |
ひとこえワ おもいぞあえぬ ほととぎす たそがれどきの くものまよいに |
ほととぎすが一声鳴いただけでは鳴いたと思えません。しかも夕暮れ時の雲のどこかで姿も見えずでは。 |
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0209 |
有明のつれなく見えし月は出でぬ山ほととぎす待つ夜ながらに |
ありあけの つれなくみえし つきワいでぬ やまほととぎす まつよながらに |
何事にも素知らぬ振りのつれない有明の月は出たにもかかわらず山ほととぎすは夜ずっと待っていても現れませんでした。 |
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0210 |
わが心いかにせよとてほととぎす雲間の月の影に鳴くらむ |
わがこころ いかにせよとて ほととぎす くもまのつきの かげになくらん |
私の心をどうせよと言ってはととぎすは雲間から漏れる月の光の中で鳴いているのでしょう。 |
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0211 |
ほととぎす鳴きて入るさの山の端は月ゆゑよりも恨めしきかな |
ほととぎす なきているさの やまのはワ つきゆえよりも うらめしきかな |
ほととぎすが鳴いて入っていく入佐の山の端は月が入って行くよりも恨めしいことです。 |
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0212 |
有明の月は待たぬに出でぬれどなほ山深きほととぎすかな |
ありあけの つきワまたぬに いでぬれど なおやまぶかき ほととぎすかな |
有明の月は待っていたわけでは無いのに出てきたけど、いまだ山の奥深くにいて出てこないほととぎすです。 |
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0213 |
過ぎにけり信太の杜のほととぎす絶えぬ雫を袖に残して |
すぎにけり しのだのもりの ほととぎす たえぬしずくを そでにのこして |
鳴きながら飛んで行ってしまったなあ信太の杜のほととぎすは。信太の樟の枝から滴り落ち続ける雫を袖に残して。 |
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0214 |
いかにせむ来ぬ夜あまたのほととぎす待たじと思へば村雨の空 |
いかにせん こぬよあまたの ほととぎす またじとおもえば むらさめのそら |
どうしよう、ほととぎすがやって来ない夜が何日も続いたので、もう待たないと思うとやって来そうな村雨のふる空模様です。 |
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0215 |
声はして雲路にむせぶほととぎす涙やそそく宵の村雨 |
こえワして くもじにむせぶ ほととぎす なみだやそそぐ よいのむらさめ |
声はしているが雲の中でむせび泣くほととぎす。その涙が降り注ぐのかな宵の村雨は。 |
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0216 |
ほととぎすなほうとまれぬ心かななが鳴く里のよその夕暮れ |
ほととぎす なおうとまれぬ こころかな ながなくさとの よそのゆうぐれ |
ほととぎすよ、やっぱりうとおしく思えない気持ちです。お前が鳴いている里が私の見知らぬ土地の夕暮れ時でも。 |
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0217 |
聞かずともここをせにせむほととぎす山田の原の杉の群立ち |
きかずとも ここをせにせん ほととぎす やまだのはらの すぎのむらだち |
聞こえなくても此処を聞く場所にしますよほととぎす。伊勢の外宮の山田の原の杉の群立っている此処を。 |
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0218 |
ほととぎす深き峰より出でにけり外山の裾に声の落ち来る |
ほととぎす ふかきみねより いでにけり とやまのすそに こえのおちくる |
ほととぎすが深い山から降りて来たのですね。里に近い山裾に鳴き声が落ちて来ます。 |
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0219 |
小笹葺く賤のまろ屋の仮の戸をあけ方に鳴くほととぎすかな |
おざさふく しづのまろやの かりのとを あけがたになく ほととぎすかな |
小笹を刈って敷いた賤山の仮小屋の戸を開けるその明け方に鳴くほととぎすよ。 |
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0220 |
うちしめりあやめぞかをるほととぎす鳴くや五月の雨の夕暮れ |
うちしめり あやめぞかおる ほととぎす なくやさつきの あめのゆうぐれ |
とっても潤い、菖蒲の香りがたちこめ、ほととぎすが鳴く、さみだれが降る夕暮れ時。 |
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0221 |
けふはまたあやめの根さへかけそへて乱れぞまさる袖の白玉 |
きょうワまた あやめのねさえ かけそえて みだれぞまさる そでのしらたま |
端午の節句の今日は、菖蒲の根も付け加えて、いつも涙で濡れてる袖が泣く音も加わってさらに袖に乱れて飛び散ってる涙の白玉。 |
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0222 |
あかなくに散りにし花のいろいろは残りにけりな君が袂に |
あかなくに ちりにしはなの いろいろワ のこりにけりな きみがたもとに |
端午の節句の今日、薬玉として、見飽きないのに散ってしまった色とりどりの花は、あなたの着物の袂に残っているのですね。 |
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0223 |
なべて世のうきに流るるあやめ草けふまでかかる根はいかが見る |
なべてよのうきにながるる あやめぐさ きょうまでかかる ねワいががみる |
おしなべてこの世の憂さやつらさに、沼地に流れながら今日までかかってる菖蒲の根、このように涙音を流す私をどう見られますか。 |
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0224 |
何事とあやめは分かでけふもなを袂にあまるねこそ絶えせね |
なにごとぞ あやめワわかで きょうもなお たもとにあまる ねこそたえせね |
なにごとか分目は分からないが、今日もまた袂からはみ出てしまうくらい長い根なのだから耐えられなく音をあげて泣いてしまいます。 |
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0225 |
早苗取る山田の懸樋もりにけり引くしめ縄に露ぞこぼるる |
さなえとる やまだのかけひ もりにけり ひくしめなわに つゆぞこぼるる |
早苗を取る山田の懸樋が漏れていたのだな。田に張ったしめ縄に露がこぼれています。 |
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0226 |
小山田に引くしめ縄のうちはへて朽ちやしぬらむさみだれの頃 |
おやまだに ひくしめなわの うちはえて くちやしぬらん さみだれのころ |
小山田に引いてある長いしめ縄は、長く引き続いて、どうして朽ち果てたりしましょうか。五月雨が降り続くころ。 |
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0227 |
いかばかり田子の裳裾もそほつらむ雲間も見えぬ頃のさみだれ |
いかばかり たごのもすそも そおつらん くもまもみえぬ ころのさみだれ |
いったいどれくらい早乙女の裳裾もビショビショになるのでしょう。雲間も見えない五月雨の頃は。 |
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0228 |
三島江の入江の真薦雨降ればいとどしをれて刈る人もなし |
みしまえの いりえのまこも あめふれば いとどしおれて かるひともなし |
三島江の入り江に生えている真薦は、五月雨が降って、いっそう萎れて誰も刈る人がいません。 |
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0229 |
真薦刈る淀の沢水深けれど底まで月の影は澄みけり |
まこもかる よどのさわみず ふかけれど そこまでつきの かげはすみけり |
真薦を刈る淀の沢の水は、五月雨が降って深くなってるけど川の底まで月の光は澄んでいます。 |
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0230 |
玉柏茂りにけりなさみだれに葉守の神のしめはふるまで |
たまかしわ しげりにけりな さみだれに はもりのかみの しめわふるまで |
美しい柏は、五月雨が良く降って立派に茂ったなあ。葉守の神が注連縄を張るまでに。 |
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0231 |
さみだれはおふの河原の真薦草刈らでや波の下に朽ちなむ |
さみだれワ おうのかわらの まがもぐさ からでやなみの したにくちなん |
五月雨が降りしきる頃生い茂った筑前国の大野河原の真薦草は刈らないまま、水量の増した波の下で朽ち果てるのでしょうか。 |
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0232 |
たまぼこの道行き人のことつても絶えてほどふるさみだれの空 |
たまぼこの みちゆきひとの ことつても たえてほどふる さみだれのそら |
道行く人がもたらす恋人からの伝言も絶えてしまい月日が過ぎていつまでも降っている五月雨の空。 |
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0233 |
さみだれの雲の絶え間をながめつつ窓より西に月を待つかな |
さみだれの くものたえまを ながめつつ まどよりにしに つきをまつかな |
五月雨を降らす雲の間を眺めながら窓から西にかたむいて出てくる月を待ちます。 |
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0234 |
あふち咲くそともの木蔭露おちてさみだれ晴るる風渡るなり |
おおちさく そとものこかげ つゆおちて さみだれはるる かぜわたるなり |
栴檀が咲く家の外の木蔭に露が落ちて、五月雨が晴れるらしく、風が吹き過ぎていきます。 |
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0235 |
さみだれの月はつれなきみ山よりひとりも出づるほととぎすかな |
さみだれの つきワつれなき みやまより ひとりもいづる ほととぎすかな |
五月雨の頃の月は情け知らずで深山から出てこないけど、その山から一人出てきて鳴くほととぎすです。 |
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0236 |
ほととぎす雲居のよそに過ぎぬなり晴れぬ思ひのさみだれの頃 |
ほととぎす くもいのよそに すぎぬなり はれぬおもいの さみだれのころ |
ほととぎすは雲のむこうに飛んで行ったようです。五月雨の頃はうっとおしい気分が続きますね。 |
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0237 |
さみだれの雲間の月の晴れゆくをしばし待ちけるほととぎすかな |
さみだれの くもまのつきの はれゆくを しばしまちける ほととぎすかな |
五月雨の雲の間から出た月が晴れていくのをしばらく待っていたほととぎすでした。 |
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0238 |
誰かまた花たちばなに思い出でむわれも昔の人となりなば |
だれかまた はなたちばなに おもいいでん われもむかしの ひととなりなば |
誰が花橘の香りを嗅いで私を思い出してくれるでしょう。私も昔の人になってしまったら。 |
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0239 |
行く末を誰しのべと夕風に契りかおかむ宿のたちばな |
ゆくすえを だれしのべと ゆうかぜに ちぎりかおかん やどのたちばな |
家の庭の橘の香によって、私の亡き後、誰に偲んでもらおうか、香を運ぶ夕風に約束しておきましょうか。 |
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0240 |
帰り来ぬ昔を今と思い寝の夢の枕ににほふたちばな |
かえりこぬ むかしをいまと おもいねの ゆめのまくらに におうたちばな |
過ぎ去った帰ってくることのない昔を今にと思いながら見た昔の夢から覚めたら枕元に橘のかおりがただよってます。 |
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0241 |
たちばなの花散る軒のしのぶ草昔をかけて露ぞこぼるる |
たちばなの はなちるのきの しのぶぐさ むかしをかけて つゆぞこぼるる |
橘の花が散る軒に生えてる忍草から昔を思い出して涙するかのように露が滴り落ちている。 |
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0242 |
五月闇みじかき夜はのうたた寝に花たちばなの袖に涼しき |
さつきやみ みじかきよわの うたたねに はなたちばなの そでにすずしき |
五月雨の頃の闇夜は短く、うたた寝状態の私の袖に橘の花の香りが涼しく漂っています。 |
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0243 |
尋ぬべき人は軒端の古里にそれかとかをる庭のたちばな |
たずぬべき ひとワのきばの ふるさとに それかとかおる にわのたちばな |
尋ねていった人は既に退いてしまい、古里の軒端にその人かと思わせる香りがする庭の橘の香りです。 |
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0244 |
ほととぎす花たちばなの香をとめて鳴くは昔の人や恋しき |
ほととぎす はなたちばなの かをとめて なくワむかしの ひとやこいしき |
ほととぎすが花橘の香を求めて鳴くのは、昔の懐かしい人を恋しく思ってでしょうか。 |
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0245 |
たちばなのにほふあたりのうたた寝は夢も昔の袖の香ぞする |
たちばなの におうあたりの うたたねワ ゆめもむかしの そでのかぞする |
橘が香るあたりでうたた寝をしていると、夢の中まで昔の懐かしい人が現れてその人の袖の香りがしています。 |
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0246 |
今年より花咲きそむるたちばなのいかで昔の香ににほふらむ |
ことしより はなさきそむる たちばなの いかでむかしの かににおうらん |
今年から咲き始める橘の花の香りがどうして昔の人の袖の香りに匂うのでしょうね。 |
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0247 |
夕暮れはいづれの雲のなごりとて花たちばなに風の吹くらむ |
ゆうぐれワ いずれのくもの なごりとて はなたちばなに かぜのふくらん |
夕暮れ時にどの雲に吹いた風が名残として花橘に吹いて昔のどの人を思い起こさせるのでしょう。 |
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0248 |
ほととぎす五月六月分きかねてやすらふ声ぞ空に聞こゆる |
ほととぎす さつきみなづき わきかねて やすらうこえぞ そらにきこゆる |
ほととぎすが5月なら一番鳴く月だし6月なら山に帰る月だけど、今、何月か分からなくて躊躇して鳴いている声が空から聞こえます。 |
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0249 |
庭の面は月もらぬまでなりにけり梢に夏の蔭茂りつつ |
にわのもワ つきもらぬまで なりにけり こずえになつの かげしげりつつ |
庭の面に月の光が漏れてこないまでになりました。夏になって梢が生い茂り影を作ってます。 |
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0250 |
わが宿のそともに立てる楢の葉の茂みに涼む夏は来にけり |
わがやどの そともにたてる ならのはの しげみにすずむ なつワきにけり |
夏がやって来ました。家の外に立ってる楢の木の大きな葉の蔭で涼んだりする夏が。 |
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0251 |
鵜飼舟あはれとぞ思ふもののふの八十宇治川の夕闇の空 |
うかいぶね あわれとぞおもう もののふの やそうじがわの ゆうやみのそら |
鵜飼舟をあわれと思ってます。宇治川の月の出ない空に篝火だけが赤赤と燃えて。 |
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0252 |
鵜飼舟高瀬さしこすほどなれやむすぼほれゆくかがり火の影 |
うかいぶね たかせさしこす ほどなれや むすぼおれゆく かがりびのかげ |
鵜飼舟が浅瀬を棹をさして越そうとしているからでしょうか、ユラユラもつれてゆく篝火の形です。 |
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0253 |
大井川かがりさしゆく鵜飼舟幾瀬に夏の夜を明かすらむ |
大井川かがりさしゆく うかいぶね いくせになつの よをあかすらん |
大井川を篝火を焚いて棹さしてゆく鵜飼舟は夜の短い夏の夜を明かしていくつの瀬を越えられるのでしょう。 |
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0254 |
久方の中なる川の鵜飼舟いかに契りて闇を待つらむ |
ひさかたの なかなるかわの うかいぶね いかにちぎりて やみをまつらん |
中国伝承による月の中に桂の木があるという桂川の鵜飼舟はどのように前世に約束をして闇の来世を待つのでしょうか。 |
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0255 |
いさり火の昔の光ほの見えて蘆屋の里に飛ぶ蛍かな |
いさりびの むかしのひかり ほのみえて あしやのさとに とぶほたるかな |
昔のままの漁火がほのかに見えて、蘆屋の里に飛ぶ同じような光を放つ蛍です。 |
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0256 |
窓近き竹の葉すさぶ風の音にいとどみじかきうたた寝の夢 |
まどちかき たけのはすさぶ かぜのおとに いとどみじかき うたたねのゆめ |
窓近くに植えてある竹の葉に戯れるように吹く風の音のためにますます短くなってしまったうたた寝の夢です。 |
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0257 |
窓近きいささ群竹風吹けば秋におどろく夏の夜の夢 |
まどちかき いささむれたけ かぜふけば あきにおどろく なつのよのゆめ |
窓近くに少しばかり群がり生えている竹に、涼しい風が吹いたので秋がもう来たのかなと驚いた夏の夜の夢です。 |
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0258 |
むすぶ手に影乱れゆく山の井のあかでも月のかたぶきにける |
むすぶてに かげみだれゆく やまのいの あかでもつきの かたぶきにける |
山中の泉を手ですくった水の中に月の光が乱れて行く、その水を飲んでも飽きないように見ていても飽きない月が西に傾いてしまった。 |
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0259 |
清見潟月はつれなき天の戸を待たでもしらむ波の上かな |
きよみがた つきワつれなき あまのとを またでもしらむ なみのうえかな |
清見潟に有明の月は夜が明けかけたことなど知らん顔で照っていて、天の戸がまだ開いてないのに待たずに白んでくる波の上です。 |
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0260 |
重ねても涼しかりけり夏衣うすき袂に宿る月影 |
かさねても すずしかりけり なつごろも うすきたもとに やどるつきかげ |
重ね着をしても涼しいです、夏衣のうすい袂に月の光が泊まってます。。 |
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0261 |
涼しさは秋やかへりて初瀬川古川のへの杉の下蔭 |
すずしさワ あきやかえりて はつせがわ ふるかわのへの すぎのしたかげ |
この涼しさはかえって秋が恥じ入るほどだ。初瀬川と布留川の出会いの川辺の杉の木の下の蔭にて。 |
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0262 |
道の辺に清水流るる柳蔭しばしとてこそ立ちとまりつれ |
みちのべに しみずながるる やなぎかげ しばしとてこそ たちとまりつれ |
道のほとりに清水が流れてます。そこに生えてる柳の影でちょっとだけ立ち止まって休息しようとしたが、長居してしまったなあ。 |
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0263 |
よられつる野もせの草のかげろひて涼しく曇る夕立の空 |
よられつる のもせのくさの かげろひて すずしくくもる ゆうだちのそら |
枯れてしわしわの野外の草一面に陰ってきて涼しくなり夕立が降りそうな雲行きです。 |
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0264 |
おのづから涼しくもあるか夏衣ひもゆふぐれの雨のなごりに |
おのづから すずしくもあるか なつごろも ひもゆうぐれの あめのなごりに |
おのずと涼しくなったか。夏衣の紐を結う、日も夕暮れになった時の夕立のお陰で。 |
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0265 |
露すがる庭の玉笹うちなびきひとむら過ぎぬ夕立の雲 |
つゆすがる にわのたまざさ うちなびき ひとむらすぎぬ ゆうだちのくも |
雨の露がすがりついている庭の玉笹が、風にしなやかになびき伏し、夕立の雲の一団が過ぎて行った。 |
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0266 |
とをちには夕立すらし久方の天の香久山雲隠れゆく |
とおちには ゆうだちすらし ひさかたの あまのかぐやま くもかくれゆく |
十市では夕立が降っているようです。天の香久山がどんどん雲に隠れていきます。 |
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0267 |
庭の面はまだかわかぬに夕立ちの空さりげなく澄める月かな |
にわのおもワ まだかわかぬに ゆうだちの そらさりげなく すめるつきかな |
庭の面はまだ乾いていないのに夕立が降った空に何もなかったかのように澄んだ月が出ています。 |
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0268 |
夕立の雲もとまらぬ夏の日のかたぶく山にひぐらしの声 |
ゆうだちの くももとまらぬ なつのひに かたぶくやまに ひぐらしのこえ |
夕立を降らせる雲も留まってない夏の日に、日が西に傾きかけている山からひぐらしの声が聞こえます。 |
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0269 |
夕づく日さすや庵の柴の戸にさびしくもあるかひくらしの声 |
ゆうづくひ さすやいおりの しばのとに さびしくもあるか ひぐらしのこえ |
夕日がさし、閉める庵の柴の戸に、寂しいなあ、ひぐらしの声が聞こえます。 |
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0270 |
秋近きけしきの杜に鳴く蝉の涙の露や下葉染むらむ |
あきちかき けしきのもりに なくせみの なみだのつゆや したばそむらん |
もうすぐ秋がやって来るという雰囲気が漂う杜の中で、鳴く蝉の涙の露が、枝の下の方にある葉を紅く染めるのでしょうか。 |
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0271 |
鳴く蝉の声も涼しき夕暮れに秋をかけたる杜の下露 |
なくせみの こえもすずしき ゆうぐれに あきをかけたる もりのしたつゆ |
蝉の鳴く声が涼しく感じる夏の夕暮れ時に、もう秋が来ていると感じる杜の木からしたたり落ちる露。 |
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0272 |
いづちとか夜は蛍ののぼるらむ行く方知らぬ草の枕に |
いづちとか よるワほたるの のぼるらん ゆくかたしらぬ くさのまくらに |
何処へ行きたいのでしょう、夜に蛍は舞い登って飛んで行くのは。行きたい場所もわからず、旅寝に草を枕にして。 |
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0273 |
蛍飛ぶ野沢に茂る蘆の根のよなよな下に通ふ秋風 |
ほたるとぶ のざわにしげる あしのねの よなよなしたに かようあきかぜ |
蛍が飛ぶ、野中の沢に茂る蘆、その蘆の根の下に毎夜訪れる心細げな秋風。 |
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0274 |
楸生ふる片山蔭に忍びつつ吹きけるものを秋の夕風 |
ひさぎおうる かたやまかげに しのびつつ ふきけるものを あきのゆうかぜ |
涼を求めてやって来た楸が生えている片山の蔭にそっと誰にも分からないように吹いていたんだよ、夕方の秋を感じる風。 |
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白露の玉もて結へるませのうちに光さへ添ふ常夏の花 |
しらつゆの たまもてゆえる ませのうちに ひかりさえそう とこなつのはな |
白露の玉で結った竹などで作った背の低い垣根の内に、その玉の輝く光さえ加わって咲いている美しい常夏の花 |
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0276 |
白露のなさけ置きける言の葉やほのぼの見えし夕顔の花 |
しらつゆの なさけおきける ことのはや ほのぼのみえし ゆうがおのはな |
白露が愛情ある言葉を掛けたので、夕顔はほんのりと白く美しい花を咲かせたのか。 |
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たそかれの軒端の荻にともすればほに出でぬ秋ぞ下に言問ふ |
たそがれの のきばのおぎに ともすれば ほにいでぬあきぞ したにこととう |
たそがれ時の軒端の荻にどうかするとまだ表立って秋とは言えない風が通ってきます。。 |
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0278 |
雲まよふ夕べに秋をこめながら風もほに出でぬ荻の上かな |
くもまよう ゆうべにあきを こめながら かぜもほにいでぬ おぎのうえかな |
雲があちらにこちらに漂う夕方の空に秋を漂わせながら、風もまだ表立って秋と感じさせないで、まだ穂の出ない荻の上を吹いてます。 |
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0279 |
山里の峰の雨雲とだえしてゆふべ涼しき真木の下露 |
やまざとの みねのあまぐも とだえして ゆうべのすずしき まきのしたつゆ |
山里近くの峰にかかっていた雨雲も途切れて、雨上がりの涼しげな夕方、真木の木々の葉からしたたり落ちる雨の雫。 |
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0280 |
岩井汲むあたりの小笹玉こえてかつがつ結ぶ秋の夕露 |
いわいくむ あたりのこざさ たまこえて かつがつむすぶ あきのゆうつゆ |
岩で囲った泉の水を汲むその辺りに生えてる小笹に露が飛び散り、葉の上をころがり早々に形を作る、早くも秋を思わせる夕露 |
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0281 |
片枝さすをふの浦梨初秋になりもならずも風ぞ身にしむ |
かたえさす おふのうらなし はつあきに なりもならずも かぜぞみにしむ |
片方へ枝を伸ばす伊勢の浦の梨は、初秋に実がなるのかならぬのか、そのように初秋になってもならなくても風が冷たく身に沁みます。 |
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0282 |
夏衣かたへ涼しくなりぬなり夜やふけぬらむ行合ひの空 |
なつごろも かたえすずしく なりぬなり よるやふけらん ゆきあいのそら |
夏衣ではもう片側が涼しくなってきたなあ。昔から夏と秋がすれ違うと言われる空では、夜が更けて夏と秋がすれ違っているのかな。 |
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0283 |
夏はつる扇と秋の白露といづれかまづはおかむとすらむ |
なつはつる おおぎとあきの しらつゆと いずれかまずワ おかんとすらん |
夏も果てて、捨て置かれる扇と秋の白露が降りるのと、どちらが先におかれるのでしょう。 |
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0284 |
禊する川の瀬見れば唐衣日もゆふぐれに波ぞたちける |
みそぎする かわのせみれば からごろも ひもゆうぐれに なみぞたちける |
6月末、夏越しの祓いをする川を見ると、禊を終えた人々が衣の紐を結っていて、日も夕暮れになり波が立ち始めました。 |
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