和歌番号 |
和歌 |
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0896 |
飛ぶ鳥の明日香の里をおきていなば君があたりは見えずかもあらむ |
とぶとりの あすかのさとを おきていなば きみがあたりワ みえずかもあらむ |
藤原の宮の古里をあとにして奈良の宮に移ったら、亡きあの人がいた辺りはもう見えないのでしょうね。 |
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0897 |
妹に恋ひわかの松原見わたせば潮干の潟に田鶴鳴き渡る |
いもにこい わかのまつばら みわたせば しおひのかたに たづなきわたる |
妻を恋しく思う私。私が待っているわかの松原から見渡すと、潮が引いた潟に鶴が鳴きながら飛んでいくよ。 |
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0898 |
いざ子どもはや日の本へ大伴の御津の浜松待ち恋ひぬらむ |
いざこども はやひのもとへ おおともの みつのはままつ まちこいぬらん |
さあ皆さん、早く日本へ帰りましょう。大伴の御津の浜の松も待ち焦がれているでしょう。 |
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0899 |
天ざかる鄙の長路を漕ぎ来れば明石の門より大和島見ゆ |
あまざかる ひなのながぢを こぎくれば あかしのとより やまとじまみゆ |
都から遠く離れた土地から長旅を舟に乗って漕いで来ると明石海峡あたりで大和地方が見えて来たよ。 |
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0900 |
笹の葉はみ山もそよに乱るなりわれは妹思ふ別れ来ぬれば |
ささのはワ みやまもそよに みだるなり われはいもおもう わかれきぬれば |
笹の葉は山路に満ちて風に揺られてそよそよと音を立てているようだが、私は一途に妻を思っている。分かれて来たのだから。 |
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0901 |
ここにありて筑紫やいづこ白雲のたなびく山の西にあるらし |
ここにありて つくしやいづこ しらくもの たなびくやまの にしにあるらし |
ここ都にいて筑紫はどちらの方向になるのでしょう。白雲がたなびいている山の彼方にあるようです。 |
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0902 |
朝霧に濡れにし衣干さずしてひとりや君が山路越ゆらむ |
あさぎりに ぬれにしころも ほさずして ひとりやきみが やまぢこゆらん |
朝の霧に濡れた衣を乾かすこともしないで、ひとりであなたは山路を越えているのでしょうか。 |
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0903 |
信濃なる浅間の嶽に立つけぶりをちこち人の見やはとがめぬ |
しなのなる あさまのたけに たつけぶり おちこちびとの みやワとがめぬ |
信濃にある浅間の嶽に昇る煙をあちこちの人が気がつかないわけはないでしょう。 |
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0904 |
駿河なる宇津の山辺のうつつにも夢にも人に逢はぬなりけり |
するがなる うつのやまべの うつつにも ゆめにもひとに あわぬなりけり |
都から遠く駿河にある宇津山のところに来てますが、現実は元より夢にもあなたは現れてくれませんね。 |
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0905 |
草枕ゆふ風寒くなりにけり衣打つなる宿や借らまし |
くさまくら ゆうかぜさむく なりにけり ころもうつなる やどやからまし |
草枕を結う夕方に風が寒くなってきました。衣を打っている砧の音が聞こえてくるあの家に今晩の宿を借りようかな。 |
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0906 |
白雲のたなびきわたる足引のやまの懸橋けふや越えなむ |
しらくもの たなびきわたる あしびきの やまのかけはし きょうやこえなん |
白雲が一面にたなびく山に架かる欄干もない板を渡しただけの橋を今日は越えるのだろうか。 |
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0907 |
東路のさやの中山さやかにも見えぬ雲居に世をやつくさむ |
あづまぢの さやのなかやま さやかにも みえぬくもいに よをやつくさん |
東国へ行く道にある小夜の中山にいます。ふるさとも見えなくなった遥か彼方で世を終えてしまうのでしょうか。 |
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0908 |
人をなほ恨みつべしや都鳥ありやとだにも問ふを聞かねば |
ひとをなほ うらみつべしや みやこどり ありやとだにも とふをきかねば |
やはり恨んじゃうのかな。業平が「名にし負わばいざ言問わむ都鳥・・・・・」と歌ったように、「お元気ですか」だけで良いのにその便りがなくては。 |
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0909 |
まだ知らぬ古里人はけふまでに来むと頼めしわれを待つらむ |
まだしらぬ ふるさとびとワ きょうまでに こんとたのめし われをまつらん |
まだ帰って来られないことを知らない古里にいる妻は、今日までには帰ってくることになっている私を待っているでしょう。 |
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0910 |
しなが鳥猪名野をゆけば有馬山ゆふ霧立ちぬ宿はなくして |
しながどり いなのをゆけば ありまやま ゆうぎりたちぬ やどはなくして |
しなが鳥が飛び去っていく猪名野を歩いて行くと有馬山に夕霧が立ち始めた。今夜の宿も決まってないのに。 |
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0911 |
神風の伊勢の浜萩折り伏せて旅寝やすらむ荒き浜辺に |
かみかぜの いせのはまはぎ おりふせて たびねやすらん あらきはまべに |
伊勢の浜に生えている萩を折り敷いて寝床を作って宿っているのでしょうか荒々しい浜辺で。 |
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0912 |
古里の旅寝の夢に見えつるは恨みやすらむまたと問はねば |
ふるさとの たびねのゆめに みえつるワ うらみやすらん またととわねば |
古里の人が旅の途中で見る夢に現れるということは私のことを恨んでいるからでしょうか。旅立ってから一度も便りを出してないので。 |
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0913 |
立ちながら今宵は明けぬ園原や伏屋といふもかひなかりけり |
たちながら こよいはあけぬ そのはらや ふしやといふも かいなかりけり |
立ったままで昨夜は過ごしてしまった。園原の伏屋という名もかいなく伏せて寝られなかったよ。 |
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0914 |
都にて越路の空をながめつつ雲居といひしほどに来にけり |
みやこにて こしぢのそらを ながめつつ くもいといいし ほどにきにけり |
都に来て以来、元いた北陸の地を眺めては、当時遥か彼方と思っていた都に今いるのだなあと思ってしまいます。 |
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0915 |
旅衣立ちゆく波路遠ければいさ白雲のほども知られず |
たびごろも たちゆくなみぢ とおければ いさしらくもの ほどもしられず |
旅衣を裁ち、出立する海のかなたは遠いので、さあ白雲の向こうからいつ戻られるのか分かりません。 |
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0916 |
舟ながら今宵ばかりは旅寝せむ敷津の波に夢は覚むとも |
ふねながら こよいばかりは たびねせん しきつのなみに ゆめはさむとも |
舟の中ではあるけど今夜だけはここで泊まりましょう。しきりに立つ波の音に夢は覚めるかもしれませんが。 |
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0917 |
わがごとくわれを尋ねば海士小舟人もなぎさのあとと答へよ |
わがごとく われをたづねば あまおぶね ひともなぎさの あととこたえよ |
私が尋ねたように仏道修行者が尋ねたら、海人さん、小舟に誰もいないように私もこの渚にもういないと答えてください。 |
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0918 |
かきくもり夕立つ波の荒ければ浮きたる舟ぞしづ心なき |
かきくもり ゆうだつなみの あらければ うきたるふねぞ しづこころなき |
とっても曇りはじめて、夕方に風、波が荒くなってきたので、浮いている舟の中にいて心が落ち着きません。 |
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0919 |
さ夜ふけて蘆の末越す浦風にあはれうちそふ波の音かな |
さよふけて あしのすえこす うらかぜに あわれうちそう なみのおとかな |
夜もふけて、蘆の葉先を越えて入江に吹いてくる風とともに、打ち寄せてくる波の音もあわれさを更に加えます。 |
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0920 |
旅寝して暁がたの鹿の音に稲葉おしなみ秋風ぞ吹く |
たびねして あかつきがたの しかのねに いなばおしなみ あきかぜぞふく |
旅寝していると、暁の頃に鹿のなく声とともに稲葉を押し伏せて吹く秋風の音も聞こえます。 |
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0921 |
わぎもこが旅ねの衣薄きほどよきて吹かなむ夜はの山風 |
わぎもこが たびねのころも うすきほど よきてふかなん よわのやまかぜ |
私の愛おしい妻の旅寝の衣が薄いので、避けて吹いておくれ夜の山風よ。 |
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0922 |
蘆の葉を刈り葺く賤の山風に衣片敷き旅寝をぞする |
あしのはを かりふくしづの やまかぜに ころもかたしき たびねぞをする |
蘆の葉を刈って屋根に葺いた身分卑しい者の家で衣を片敷きて一人旅寝をします。 |
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0923 |
ありし世の旅は旅ともあらざりきひとり露けき草枕かな |
ありしよの たびワたびとも あらざりき ひとりつゆけき くさまくらかな |
夫が生きていた時の旅は旅ではありませんでした。夫亡き後一人で旅をする今涙に濡れ独り寝する草枕です。 |
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0924 |
山路にてそぼちにけりな白露の暁おきの木々の雫に |
やまぢにて そぼちにけりな しらつゆの あかつきおきの きぎのしずくに |
山の中を行く旅では、すっかり濡れてしまっているわね、白露が置く暁の頃に起きて木々の間から落ちる雫に。 |
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0925 |
草枕旅寝の人は心せよ有明の月もかたぶきにけり |
くさまくら たびねもひとワ こころせよ ありあけのつきも かたぶきにけり |
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旅寝をしている人は気をつけて。有明の月がもう西に傾いているから夜明けは近いですよ。 |
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0926 |
磯馴れぬ心ぞたへぬ旅寝する蘆のまろ屋にかかる白波 |
いそなれぬ こころぞたえぬ たびねする あしのまろやに かかるしらなみ |
磯辺になじめない私の心は耐えられません。旅寝をしている蘆葺きの屋根の小屋に寄って来る白波よ。 |
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0927 |
旅寝する蘆のまろ屋の寒ければ爪木樵り積む舟急ぐなり |
たびねする あしのまろやの さむければ つまぎこりつむ ふねいそぐなり |
旅寝をしている蘆葺きの小屋は寒いなあ。それで柴を積んだ船は急いで運んでるのだ。 |
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0928 |
み山路に今朝や出でつる旅人の笠白妙に雪積もりつつ |
みやまぢに けさやいでつる たびびとの かさしろたえに ゆきつもりつつ |
深山路を今朝出たのだな。旅人の笠に真っ白な雪が積もっている。 |
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0929 |
松が根に尾花刈り敷き夜もすがら片敷く袖に雪は降りつつ |
まつがねに おばなかりしき よもすがら かたしくそでに ゆきはふりつつ |
松の根元に薄の穂を刈って敷き、夜通し一人寝の衣の袖に雪が降りかかっています。 |
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0930 |
見し人もとふの浦風音せぬにつれなく澄める秋の夜の月 |
みしひとも とうのうらかぜ おとせぬに つれなくすめる あきのよのつき |
かつて都で共に月を見た人も十布の浦風が音を立てるように問うては来ない。つれなく澄み切った秋の夜の月の元で過ごしてます。 |
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0931 |
草枕ほどぞ経にける都出でて幾夜か旅の月に寝ぬらむ |
くさまくら ほどぞへにける みやこいでて いくよかたびの つきにねぬらん |
草を枕にしてずいぶん日が過ぎてしまった。都を出てから幾夜旅の空の月を見ながら寝たことか。 |
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0932 |
夏刈りの蘆の仮寝もあはれなり玉江の月の明方の空 |
なつかりの あしのかりねも あわれなり たまえのつきの あけがたのそら |
夏に蘆を刈り敷いて野宿するのも風情があっていいものだ。玉江の明け方の空には有明の月。 |
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0933 |
立ち帰りまたも来て見む松島や雄島の苫屋波に荒らすな |
たちかえり またもきてみん まつしまや おじまのとまや なみにあらすな |
波が立ち返るように私もまた戻って来ましょう。それまで松島の雄島の苫で屋根を葺いた小屋は波に荒らされないで残っていてね。 |
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0934 |
言問へよ思ひおきつの浜千鳥なくなく出でしあとの月影 |
こととえよ おもいおきつの はまちどり なくなくいでし あとのつきかげ |
尋ねてよ、浜千鳥。興津の浜千鳥が鳴くように思いを残して泣く泣く旅立った足跡を照らす月の光 |
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0935 |
野辺の露浦わの波をかこちても行方も知らぬ袖の月影 |
のべのつゆ うらわのなみを かこちても ゆくえもしらぬ そでのつきかげ |
野辺に置く露、入りくんだ海岸の波のせいで濡れると言い訳しても、当てなき旅を続ける私の袖に月の光が宿ってるのは私の涙のせいなんです。 |
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0936 |
もろともに出でし空こそ忘られね都の山の有明の月 |
もろともに いでしそらこそ わすられね みやこのやまの ありあけのつき |
貴方が東の山に出で、私も旅立ったその時の空が忘れられません。都の方の山の端にかかる有明の月。 |
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0937 |
都にて月をあはれと思ひしは数にもあらぬすさびなりけり |
みやこにて つきをあわれと おもいしは かずにもあらぬ すさびなりけり |
都で見る月は風情のあるものと思っていたのはどうってことのない成り行き任せのことでしたよ。旅先で見る月の風情は... |
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0938 |
月見ばと契りおきてし古里の人もや今宵袖濡らすらむ |
つきみばと ちぎりおきてし ふるさとの ひともやこよい そでぬらすらん |
月を見たらお互いのことを思い出そうと約束してたが、古里のあの人も今夜の月を見て私を思い出して涙で袖を濡らしているでしょうか。 |
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0939 |
明けばまた越ゆべき山の峰なれや空ゆく月の末の白雲 |
あけばまた こゆべきやまの みねなれや そらゆくつきの すえのしらくも |
夜が明けるとまた旅の先の越えてゆく峰なんでしょうね。空を移りゆく月の先に白雲が見えるあの峰が。 |
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0940 |
古里のけふの面影さそひ来と月にぞ契る小夜の中山 |
ふるさとの きょうのおもかげ さそいこと つきにぞちぎる さよのなかやま |
古里の人の今日の面影を連れて来ておくれと月に約束する遠江の国の佐夜の中山にて。 |
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0941 |
忘れじと契りて出でし面影は見ゆらむものを古里の月 |
わすれじと ちぎりていでし おもかげワ みゆらんものを ふるさとのつき |
お互いに忘れないと誓って旅立ったが、私の面影は古里の月にも映って見えているだろうに。ちっとも便りが来ない。 |
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0942 |
東路の夜はのながめを語らなむ都の山にかかる月影 |
あづまぢの よわのながめを かたらなん みやこのやまに かかるつきかげ |
東国への旅路にて夜半に物思いをしながら月を見ていることを恋しき人に語って欲しい、都の方に出ている月の光よ。 |
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0943 |
幾夜かは月をあはれとながめきて波に折り敷く伊勢の浜萩 |
いくよかワ つきをあわれと ながめきて なみにおりしく いせのはまはぎ |
いったい幾晩月をしみじみ眺めながら、波の打ち寄せる伊勢の浜辺で萩を折り敷いて寝ていることか。 |
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0944 |
知らざりし八十瀬の波を分け過ぎて片敷くものは伊勢の浜萩 |
しらざりし やそせのなみを わけすぎて かたしくものワ いせのはまはぎ |
今まで知らなかった鈴鹿川の寄せる波を分けて過ぎて行き、寝床に片敷くものは伊勢の浜萩です。 |
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0945 |
風寒み伊勢の浜萩分けゆけば衣かりがね波に鳴くなり |
かぜさむみ いせのはまはぎ わけゆけば ころもかりがね なみになくなり |
風が冷たいので、伊勢の浜萩を分けて浜辺に行くと、雁が衣を貸してと波の上で鳴くのが聞こえてきます。 |
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0946 |
磯馴れで心もとけぬこも枕荒くな懸けそ水の白波 |
いそなれで こころもとけぬ こもまくら あらくなかけそ みずのしらなみ |
磯辺になれず、心も打ち解けないまま、薄によく似た薦で結った枕で寝ている私。荒々しくかけないでね白波の水よ。 |
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0947 |
行末はいま幾夜とか岩代の丘の萱根に枕結ばむ |
ゆくすえワ いまいくよとか いわしろの おかのかやねに まくらむすばん |
行く手まではあと幾夜あるのかと思いながら岩代の丘の萱の根元で枕を結んで寝ることになるのでしょう。 |
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0948 |
松が根の雄島が磯のさよ枕いたくな濡れそ海人の袖かは |
まつがねの おじまがいその さよまくら いたくなぬれそ あまのそでかワ |
松の根元を枕にして松島の雄島の磯で旅寝する私の袖はそんなに濡れないでほしい。海人の袖ではないのだから。 |
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0949 |
かくしても明かせば幾夜過ぎぬらむ山路の苔の露の筵に |
かくしても あかせばいくよ すぎぬらん やまぢのこけの つゆのむしろに |
この様な状態でも夜は明けて行き幾夜過ぎたのでしょう。山路の露を置いた苔をしとねとして。 |
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0950 |
白雲のかかる旅寝もならはぬに深き山路に日は暮れにけり |
しらくもの かかるたびねも ならわぬに ふかきやまぢに ひワくれにけり |
白雲が懸かるこのような旅寝も慣れてないのに深い山路は日が暮れてしまいました。 |
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0951 |
夕日さす浅茅が原の旅人はあはれいづくに宿をとるらむ |
ゆうひさす あさぢがからの たびびとワ あわれいずくに やどをとるらん |
夕日の差す浅茅が原を行く旅人は、あぁあぁどこで今夜の宿を見つけるのでしょう。 |
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0952 |
いづくにか今宵は宿をかり衣ひもゆふぐれの峰のあらしに |
いずくにか こよいワやどを かりごろも ひもゆうぐれの みねのあらしに |
今夜は何処で宿を借りましょうか。狩り衣の紐結う日も夕暮れ時になり、峰を強い山風が吹いているのが聞こえます。 |
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0953 |
旅人の袖吹きかへす秋風に夕日さびしき山のかけはし |
たびびとの そでふきかえす あきかぜに ゆうひさびしき やまのかけはし |
越えて行く旅人の袖を吹き返す秋風に夕日が寂しく差している険しい崖にかけた板を渡した橋。 |
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0954 |
古里に聞きしあらしの声も似ず忘れね人をさやの中山 |
ふるさとに ききしあらしの こえもにず わすれねひとを さやのなかやま |
古里で聞いた山風の音とは似ても似つかない、ここさやの中山で聞く寂しさ。いっそのこと忘れてしまえ古里の人。 |
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0955 |
白雲の幾重の峰を越えぬらむ馴れぬあらしに袖をまかせて |
しらくもの いくえのみねを こえぬらん なれぬあらしに そでをまかせて |
知らないなあ、白雲が幾重にも重なる幾重もの峰を越えて来たか。慣れない嵐に袖をひるがえしながら。 |
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0956 |
けふはまた知らぬ野原にゆきくれぬいづれの山か月は出づらむ |
きょうワまた しらぬのはらに ゆきくれぬ いずれのやまか つきワいずらん |
今日はまた知らない野原に行って日が暮れてしまった。いずれの山から月が出るのでしょう。 |
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0957 |
古里も秋は夕べを形見にて風のみ送る小野の篠原 |
ふるさとも あきワゆうべを かたみにて かぜのみおくる おののしのはら |
古里も秋の夕べとなり、その哀れさを古里の形見として風のみ送って来る小野の篠原にて。 |
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0958 |
いたづらに立つや浅間の夕けぶり里問ひかぬるをちこちの山 |
いたずらに たつやあさまの ゆうけぶり さとといかぬる おちこちのやま |
宿の炊煙とまぎらわしく煙が立っているなあ浅間山の夕暮れ。今夜泊まる里を尋ねかねるあっちっこちの山々よ。 |
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0959 |
都をば天つ空とも聞かざりき何ながむらむ雲のはたてを |
みやこをば あまつそらとも きかざりき なにながむらん くものはたてを |
都が大空にあるとは聞いたことありません。それなのになぜこんなにじっと眺めているのでしょうか雲のはての空を。 |
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0960 |
草枕夕べの空を人問はば鳴きても告げよ初雁の声 |
くさまくら ゆうべのそらを ひととわば なきてもつげよ はつかりのこえ |
夕方の空の下で草枕を結う境遇の私のこと尋ねてくれる人がいたら、鳴いて伝えてください初雁の声。 |
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0961 |
臥しわびぬ篠の小笹のかり枕はかなの露や一夜ばかりに |
ふしわびぬ しののこざさの かりまくら はかなのつゆや ひとよばかりに |
臥しながら耐えられない思いよ、篠の笹を刈っての仮枕で。かりそめの露とともに過ごす一夜だけに。 |
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0962 |
岩がねの床にあらしを片敷きてひとりや寝なむさよの中山 |
いわがねの とこにあらしを かたしきて ひとりやねなん さよのなかやま |
大きい岩の根元を寝床にして嵐とともに一人寂しく寝ることになるのでしょうか、遠江の国のさよの中山で。 |
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0963 |
たれとなき宿の夕べを契りにてかはるあるじを幾夜問ふらむ |
たれとなき やどのゆうべを ちぎりにて かわるあるじを いくよとふらん |
誰のものとも分からない宿を借りる夕べは前世からの約束なので毎夜変わる宿の主を幾夜訪れるのでしょう。 |
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0964 |
枕とていづれの草に契るらむゆくを限りの野辺の夕暮れ |
まくらとて いずれのくさに ちぎるらん ゆくをかぎりの のべのゆうぐれ |
枕とするためにどの草とちぎることになるのでしょう。行ける所まで行くつもりでしたが野辺は夕暮れになりました。 |
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0965 |
道の辺の草の青葉に駒とめてなほ古里をかへりみるかな |
みちのべの くさのあおばに こまとめて なおふるさとを かえりみるかな |
道のほとりの草が青いところで馬に食べさせるために止めたけど、やはり都の方を振り返って見てしまいます。 |
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0966 |
初瀬山夕こえくれて宿問へば三輪の橿原に秋風ぞ吹く |
はつせやま ゆうごえくれて やどとえば みわのかしはらに あきかぜぞふく |
初瀬山を夕方に越えようとしたが日が暮れたので宿を探したが、三輪の橿原に秋風が吹いてます。まだ宿は見つからない...。 |
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0967 |
さらぬだに秋の旅寝はかなしきに松に吹くなりとこの山風 |
さらぬだに あきのたびねは かなしきに まつにふくなり とこやまのかぜ |
そうでなくとも秋の旅寝は寂しいのに、松に吹く近江の鳥籠の山風の音がする。古里では待っている妻が床に臥せっているでしょう。 |
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0968 |
忘れなむ待つとな告げそなかなかに因幡の山の峰の秋風 |
わすれなん まつとなつげそ なかなかに いなばのやまの みねのあきかぜ |
いっそ忘れてしまおう。古里の人が待っていると、むしろ告げないでおくれ。因幡の山の峰の秋風よ。 |
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0969 |
契らねど一夜は過ぎぬ清見潟波に別るるあかつきの雲 |
ちぎらねど ひとよワすぎぬ きよみがた なみにわかるる あかつきのくも |
契りを結ばないまま一夜が過ぎてしまった。ここ清見潟では暁の雲が波に分かれて登っていく。 |
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0970 |
古里に頼めし人も末の松待つらむ袖に波や越すらむ |
ふるさとに たのめしひとも すえのまつ まつらんそでに なみやこすらん |
古里にいる私を頼りにしている人も末の松山に波が超すように、待ちわびた袖に涙の波が越しているのでしょうか。もうあなたは...。 |
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0971 |
日を経つつ都しのぶの浦さびて波よりほかのおとづれもなし |
ひをへつつ みやこしのぶの うらさびて なみよりほかの おとずれもなし |
日がたつにつれて都を思う気持ちも荒んでいき、しのぶの浦は波のほかには訪れるものもありません。 |
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0972 |
さすらふるわが身にしあれば象潟や海人の苫屋にあまたたび寝ぬ |
さすらふる わがみにしあれば きさかたや あまのとまやに あまたたびねん |
ずっと流離っている私なので、象潟の海人の苫屋に何度も旅寝していることか。 |
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0973 |
難波びと蘆火たく屋に宿かりてすずろに袖の潮垂るるかな |
なにわびと あしびたくやに やどかりて すずろにそでの しおたるるかな |
難波の人が蘆火を焚く小屋に宿を借りて、自然にわけもなく袖は涙と潮がぽたぽた流れ落ちます。 |
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976 |
世の中はうきふししげし篠原や旅にしあれば妹夢に見ゆ |
よのなかワ うきふししげし しのはらや たびにしあれば いもゆめにみん |
世の中は、苦しいことが多い。篠原に旅して夜になると愛しい妻が夢にあらわれます。 |
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974 |
また越えむ人も泊まらばあはれ知れわが折り敷ける峰の椎柴 |
またこえん ひともとまらば あわれしれ わがおりしける みねのしいしば |
私の後にここを越えて来て泊まる人がいたら私の悲哀を知って欲しい。私が床を作る為に折り敷いた峰の椎の小枝を見て。 |
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975 |
道すがら富士のけぶりもわかざりき晴るる間もなき空のけしきに |
みちすがら ふじのけむりも わかざりき はるるまもなき そらのけしきに |
旅の道中、富士山の煙もはっきり見分けがつかなかった。晴れる間もない空模様だったから。 |
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0977 |
おぼつかな都に住まぬ都鳥言問ふ人にいかが答へし |
おぼつかな みやこにすまん みやこどり こととふひとに いかがこたえし |
よく分からないなあ。都に住んでいない都鳥は、都人のことを尋ねた在原業平に何と答えたのでしょうか。 |
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0978 |
世の中を厭ふまでこそかたからめかりの宿りを惜しむ君かな |
よのなかを いとうまでこそ かたからめ かりのやどりを おしむきみかな |
世の中から逃れて隠棲することは難しいとしても、宿を借りることまであなたはもの惜しみされるのですね。 |
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0979 |
世を厭ふ人とし聞けばかりの宿に心とむなと思ふばかりぞ |
よをいとう ひととしきけば かりのやどに こころとむなと おもうばかりぞ |
世の中から逃れて隠棲した人と聞いていますので、宿を借りるなどと考えないように、仮の宿の現世に執着しないように願うばかりです。 |
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0980 |
袖に吹けさぞな旅寝の夢も見じ思ふ方より通ふ浦風 |
そでにふけ さぞなたびねの ゆめもみじ おもうかたより かよううらかぜ |
私の袖に吹いてください。きっと旅寝での夢には愛しい人は現れないでしょうから、恋しい古里の方から吹き通う浦風よ。 |
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0981 |
旅寝する夢路はゆるせ宇津の山関とは聞かず守る人もなし |
たびねする ゆめぢはゆるせ うつのやま せきとワきかず もるひともなし |
旅寝する夢の通い路では古里の人と行き来するのを許してほしい。宇津の山は関と聞いていないし関守もいないし。 |
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0982 |
都にもいまや衣を宇津の山夕霜はらふ蔦の下風 |
みやこにも いまやころもを うつのやま ゆうしもはらう つたのしたかぜ |
都でも今頃妻は衣を打っているのだろうか。私は衣に置いた夕霜を手で払いながら宇津の山の蔦の茂った下風が吹くなか越えて行きます。 |
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0983 |
袖にしも月かかれとは契りおかず涙は知るや宇津の山越え |
そでにしも つきかかれとワ ちぎりおかず なみだワしるや うつのやまごえ |
私は月にこのように宿りなさいとは約束していなかった。涙はその訳を知ってるのでしょうか、心細い宇津の山越えの旅路で。 |
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0984 |
立田山秋ゆく人の袖を見よ木々の梢はしぐれざりけり |
たつたやま あきゆくひとの そでをみよ きぎのこずえワ しぐれざりけり |
立田山の秋に旅行く人の紅涙の袖を見なさい。それに比べたら木々の梢は時雨に濡れなかったようで余り紅葉していません。 |
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0985 |
悟りゆくまことの道に入りぬれば恋しかるべき古里もなし |
さとりゆく まことのみちに いりぬれば こいしかるべき ふるさともなし |
悟りの境地に達する真実の道、仏道に入ったので、普通なら旅先で古里を恋しく思うものですが、私には恋しく思うはずの古里がありません。 |
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0986 |
古里に帰らむことはあすか川渡らぬ先に淵瀬たがふな |
ふるさとに かえらんことワ あすかがわ わたらぬさきに ふちせたがうな |
故郷に帰るのは明日です。飛鳥川よ、渡らないうちに淵と瀬を間違えないでね。世の中は無常です。明日の事など誰も分からないけどね。 |
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0987 |
年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけりさやの中山 |
としたけて またこゆべしと おもいきや いのちなりけり さやのなかやま |
年老いてまた越えることになるだろうと思ったでしょうか。命あってのことなんですね、遠江国のさやの中山を越えるのも。 |
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0988 |
思ひおく人の心にしたはれて露分くる袖のかへりぬるかな |
おもいおく ひとのこころに したわれて つゆわくるそでの かえりぬるかな |
思いを残してきた人のことが心に慕わしく思われて、露を分ける旅衣の袖は露と涙で色あせてしまいました。古里に帰ることはないのですが。 |
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0989 |
見るままに山風荒くしぐるめり都もいまや夜寒なるらむ |
みるままに やまかぜあらく しぐるめり みやこもいまや よさむなるらん |
見る見るうちに嵐はひどくなり、しぐれるようです。都も今頃は夜の寒さを強く感じているのでしょうか。 |
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